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泉 鏡花

幼い頃の記憶

読み手:アン荻野(2024年)

幼い頃の記憶

著者:泉 鏡花 読み手:アン荻野 時間:9分5秒

 人から受けた印象と云うことに就いて先ず思い出すのは、幼い時分の軟らかな目に刻み付けられた様々な人々である。
 年を取ってからはそれが少い。あってもそれは少年時代の憧れ易い目に、些っと見た何の関係もない姿が永久その記憶から離れないと云うような、単純なものではなく、忘れ得ない人々となるまでに、いろいろ複雑した動機なり、原因なりがある。
 この点から見ると、私は少年時代の目を、純一無雑な、極く軟らかなものであると思う。どんな些っとした物を見ても、その印象が長く記憶に止まっている。大人となった人の目は、もう乾からびて、殻が出来ている。余程強い刺撃を持ったものでないと、記憶に止まらない ・・・

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