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正宗 白鳥 作
読み手:小林 きく江(2024年)
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私は發表する當てのないのに物を書いたことはない。また材料を得るために旅行をしたり讀書したりしたことはない。雜誌などに頼まれて何か書かうとして机に向つて筆を採つてから、さて材料はどれにしようかと考へるのである。 さうすると、いろ/\な材料が頭に浮んで來る。幾十となく思ひ浮ぶ。生きてゐる限り材料の缺乏に苦しむことはない譯なのだ。自分自身の生涯については云ふまでもなく、肉親縁者の事、近隣の男女の事、・・・