田中 貢太郎 作 狸と俳人読み手:いしだ きよこ(2024年) |
安永年間のことであった。伊勢大廟の内宮領から外宮領に至る裏道に、柿で名のある蓮台寺と云う村があるが、其の村に澤田庄造という人が住んでいた。
庄造は又の名を永世と云い、号を鹿鳴と云って和歌をよくし俳句をよくした。殊に俳句の方では其の比なかなか有名で、其の道の人びとの間では、一風変ったところのある俳人として知られていた。
庄造は煩雑なことが嫌いなので、妻も嫁らず時どき訪れて来る俳友の他には、これと云って親しく交わる人もなく、一人一室に籠居して句作をするのを何よりの楽しみにしていた。
某年の晩秋の夕のことであった・・・