泉 鏡花 作 迷子読み手:堀口 直子(2024年) |
お孝が買物に出掛ける道だ。中里町から寺町へ行かうとする突當の交番に人だかりがして居るので通過ぎてから小戻をして、立停つて、少し離れた處で振返つて見た。
ちやうど今雨が晴れたんだけれど、蛇の目の傘を半開にして、うつくしい顏をかくして立つて居る。足駄の緒が少し弛んで居るので、足許を氣にして、踏揃へて、袖の下へ風呂敷を入れて、胸をおさへて、顏だけ振向けて見て居るので。大方女の身でそんなもの見るのが氣恥かしいのであらう。
ことの起原といふのは、醉漢でも、喧嘩でもない、意趣斬でも、竊盜でも、掏賊でもない。六ツばかりの可愛いのが迷兒になつた・・・