夢野 久作 作 金銀の衣裳読み手:桑村 恵子(2023年) |
昔或る処に貧乏な母娘がありました、お父様は早くになくなつて今はお母様と娘のお玉と二人切でしたが何しろ貧乏なので其日其日の喰べるものもありません、只お母様が毎日毎日他所へ行つて着物の洗ぎ洗濯や針仕事をしていくらかの賃金を貰つて来てやつと細い煙を立てゝ居りました。処が此お玉と云ふ娘は生れ付きまことに縹緻がよくてとても人間とは思はれぬ位で名前の通り玉の様に美しく月の様に清らかな姿をして居りましたから近所の村や町の人々は皆不思議がつて砂利の中に玉が湧いたと云ひ囃して居りました。お母様も家が貧乏な丈けにこれを聞くにつけてもお玉の美しいのがいぢらしくてなりませぬ・・・