佐藤 春夫 作 おもちゃの蝙蝠読み手:西村 文江(2023年) |
あるところに一匹のコーモリがいた。それはオモチャで、ボール紙を切り抜いてその上に紫いろのアートペーパーがはりつけてあった。そして小さなゼンマイ仕掛でバタバタと飛ぶように出来ていた。
ところがある日、このコーモリがどうしたのか、それをこしらえた職人の店へ帰って来た。それは街に青い瓦斯燈がまたたき出した頃で、職人がその一日の仕事を終えてその木の馬や鳥や、それからそのコーモリの弟である沢山のコーモリなどをかたづけてから、煙草に火をつけて一ぷく吸っている時であった。その時、職人はむこうの角の方から地面とすれすれに鳥のようなものがヒラヒラとこちらへ飛んで来るのを見た。
しかし職人はすぐそれが自分のこしらえたコーモリであるということに気がついた・・・