吉野 秀雄 作 長谷川等伯の「松林図屏風」読み手:齋藤 こまり(2023年) |
水墨の絵から何か一つ選ばうと思案する間もなく、長谷川等伯の松林図屏風がはうふつと目の前に現はれた。上野の博物館にあるもので、いくたびかそこで見、そのたびに感動の溜息をついた絵だ。
六曲一双つまり十二扇の大画面に、濃淡およそ二十本ばかりの松が、遠近・高低・幹の直立と斜め等の関係を保ちつつ、見事な調子でさらさらと描かれてゐる。煙雨がいつぱいにたてこめ、かくれて見えない松も多いらしい。逆にいふと、松の見えない部分はすべて煙雨で、それがこの絵の余裕となり、そこに松を浮かせて情趣をかもしだす下地をなしてゐる・・・