高村 光太郎 作 智恵子抄 冬の朝のめざめ読み手:アン荻野(2023年) |
冬の朝なれば
ヨルダンの川も薄く氷りたる可し
われは白き毛布に包まれて我が寝室の内にあり
基督に洗礼を施すヨハネの心を
ヨハネの首を抱きたるサロオメの心を
我はわがこころの中に求めむとす
冬の朝なれば街より
つつましくからころと下駄の音も響くなり
大きなる自然こそはわが全身の所有なれ
しづかに運る天行のごとく
われも歩む可し
するどきモツカの香りは
よみがへりたる精霊の如く眼をみはり
いづこよりか室の内にしのび入る・・・