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小川 未明

ねこ

読み手:野口 良子(2023年)

ねこ

著者:小川 未明 読み手:野口 良子 時間:8分36秒

 黒ねこは、家の人たちが、遠方へ引っ越していくときに、捨てていってしまったので、その日から寝るところもなければ、また、朝晩食べ物をもらうこともできませんでした。しかたなく、昼間はあちらのごみ箱をあさり、こちらのお勝手口をのぞき、夜になると、知らぬ家のひさしの下や、物置小舎のようなところにうずくまって、眠ったのであります。
 こうなると、いままでかわいがってくれた人々までが、
「そら、どらねこがきた。」といって、顔を出すと水をかけたり、いたずらっ子は、そばを通ると、小石を拾って投げたりしました。もとは、きれいな毛色であったのが、このごろは、どこへでも入るので汚れて、まことにみすぼらしい姿となってしまいました・・・

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