吉井 勇 作 或る日の小せん読み手:成 文佳(2023年) |
今は故人になつてしまつたが、私の知つてゐる落語家先代の柳家小せんは、足腰が立たず、目が見えなくなつてからも、釈台を前に置いて高座を勤め、昔からある落語にもいろいろ自分で工夫をして、「芸」に磨きをかけることを忘れなかつた。
久保田万太郎、岡村柿紅、私などが肝煎となつて、「小せん会」と云ふものを作り、毎月一回何処かの寄席で独演会をやつてゐたが、幸ひにいつも大入だつたのは、要するに当人が芸に熱心だつたからなのであつた。
「五人廻し」「錦の袈裟」「子別れ」「とんちき」「高尾」「山崎屋」「突落し」「居残り佐平次」「磯の鮑」「お見立」「廓大学」「お茶汲」「羽織」「白銅」と云つたやうな廓話が得意で、・・・