中谷 宇吉郎 作 郭公のおとずれ読み手:横山 宜夫(2023年) |
六月に入ってしばらくすると、郭公が鳴く。
そして郭公とつれて、待ちかねた北海道の初夏が訪れて来る。
長い寒い北国の春につかれた人々は、爽かな初夏の風が、ようやくに出揃った楡の青葉をぬけて来る日が二、三日つづくと、やっと安心する。そして九月までの短い夏にいろいろの希望をかけるのである。
夏に北海道を訪れた人は、誰も北海道の美しさを讃美する。
それには緑の鮮かさとか、気温の涼しさとかいうものもあろうが、それよりも旅人にこの土地の風土の清新さを印象づける一番の要素は、湿度の問題ではなかろうかと思われる・・・