楠山 正雄 作 一本のわら読み手:齋藤 こまり(2023年) |
一
むかし、大和国に貧乏な若者がありました。一人ぼっちで、ふた親も妻も子供もない上に、使ってくれる主人もまだありませんでした。若者はだんだん心細くなったものですから、これは観音さまにお願いをする外はないと思って、長谷寺という大きなお寺のお堂におこもりをしました。
「こうしておりましては、このままあなたのお前でかつえ死にに死んでしまうかも知れません。あなたのお力でどうにかなるものでしたら、どうぞ夢ででもお教え下さいまし。その夢を見ないうちは、死ぬまでここにこうしておこもりをしておりますから。」
こういって、その男は観音さまの前につっ伏しました。それなり幾日たっても動こうとはしませんでした・・・