坂口 安吾 作 悪妻論読み手:二宮 正博(2023年) |
悪妻には一般的な型はない。女房と亭主の個性の相対的なものであるから、わが平野謙の如く(彼は僕らの仲間では大愛妻家という定説だ)先日両手をホータイでまき、日本が木綿不足で困っているなどとは想像もできない物々しいホータイだ。肉がえぐられる深傷だという無慙な話であるけれども、彼の方が女房の横ッ面をヒッパたいたことすらもないという沈着なる性格、深遠なる心境、まさしく愛猫家や愛妻家の心境というものは凡俗には理解のできないものだ。
思うに多情淫奔な細君は言うまでもなく亭主を困らせる。困らせられるけれども、困らせられる部分で魅力を感じている亭主の方が多いので、浮気な細君と別れた亭主は、浮気な亭主と別れた女房同様に、概ね別れた人にミレンを残しているものだ・・・