岡本 かの子 作 桃のある風景読み手:アン荻野(2023年) |
食欲でもないし、情欲でもない。肉体的とも精神的とも分野をつき止めにくいあこがれが、低気圧の渦のように、自分の喉頭のうしろの辺に鬱して来て、しっきりなしに自分に渇きを覚えさせた。私は娘で、東京端れの親の家の茶室作りの中二階に住んでいた頃である。私は赤い帯を、こま結びにしたまま寝たり起きたりして、この不満が何処から来たものか、どうしたら癒されるかと、うつらうつら持て扱っていた。
人が、もしこれを性の欲望に関する変態のものだったろうと言うなら、或はそうかも知れないと答えよう。丁度、年頃もその説を当嵌めるに妥当である・・・