中谷 宇吉郎 作 日本のこころ読み手:二宮 正博(2023年) |
もう二十年くらいも昔の話であるが、大学を出てすぐの頃、私は理化学研究所(現在の科学研究所)へはいった。そして寺田先生の助手として、三年間先生の実験室で働いた。
その頃の理化学研究所、というよりも理研といった方が通りがよいのであるが、その理研には、大学を出たての若い仲間がたくさんいた。同期の藤岡(由夫)君や、一年あとの菊池(正士)君、それに相対性理論でアインシュタインに大いに盾をついた土井(不曇)さんなど、元気のよい連中が十人近くも集って、毎週木曜日の晩に雑誌会をやって、皆が大いに気焔をあげていたものである。
丁度現在の量子物理学が生まれつつあった時代で、電子の波動性というとんでもないことを提唱したドゥ・ブロイの最初の論文を、たしか芝(亀吉)さんだったかが初めて読んだのも、この雑誌会であった・・・