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高村 光太郎 作
読み手:Juliko Miyao(2023年)
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二つに裂けて傾く磐梯山の裏山は 険しく八月の頭上の空に目をみはり 裾野とほく靡いて波うち 芒ぼうぼうと人をうづめる 半ば狂へる妻は草を藉いて坐し わたくしの手に重くもたれて 泣きやまぬ童女のやうに慟哭する ――わたしもうぢき駄目になる 意識を襲ふ宿命の鬼にさらはれて のがれる途無き魂との別離 その不可抗の予感・・・