夏目 漱石 作 永日小品 変化読み手:みきさん(2023年) |
二人は二畳敷の二階に机を並べていた。その畳の色の赤黒く光った様子がありありと、二十余年後の今日までも、眼の底に残っている。部屋は北向で、高さ二尺に足らぬ小窓を前に、二人が肩と肩を喰っつけるほど窮屈な姿勢で下調をした。部屋の内が薄暗くなると、寒いのを思い切って、窓障子を明け放ったものである。その時窓の真下の家の、竹格子の奥に若い娘がぼんやり立っている事があった。静かな夕暮などはその娘の顔も姿も際立って美しく見えた・・・