【ネタばれ注意!】男女逆転・大奥(よしながふみ)の最終巻、読み終えました! 意表をついて齋藤杏花 (さいとうあんな)の漫画レビューなぞを

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なんか、やっぱ暑っスねえ。
季節の進みは確実に例年より早い、そうそう、夕べ蚊の大襲撃を受けて起こされてしまいましたわ。
蚊取なんか未だ用意してる訳がない、夜中にガシャガシャかき回しだしてヤドロクまで起こしてしまい、
「また嬶さんの点検癖が」
と叱られてしまいました。
そうなんですよねえ。じぃじの点検癖が隔世遺伝してるようで、私・齋藤杏花 (さいとうあんな)も。

起こされた割には夫婦ともさわやかに目覚めた朝、洗濯を済まして投稿です。
お題にもしましたように、つんどく状態だった男女逆転・大奥(よしながふみ)の最終巻を漸く読み終えましたので、レビューなぞをしてみたく存じます。
で、再び。
そうなんですよねえ、あれだけ漫画をボロクソに言ってる割には結構読んでんですわ、私って。
ま、なんとかスーパーポイントと替えるのは漫画本が一番ってことで、はは。

既に出遅れ気味ですので、多くの方が書いてますよね。
よかった、そのとおりです。
時は明治、終盤の主役たちが乗り合わせた米国行き客船の中で、天璋院だった過去を塗り消し一介の氏族になった島津胤篤が津田梅に向かって、
「この国はかつて代々女が将軍の座に就いていたのでございますよ」
ポツリ一言で幕、
唸らされました。

この16年の長きに渡った大曼荼羅の筋をお話しせねばなりませんね。
江戸時代の我が国を舞台としたSF劇画です。
男のみが感染する赤面疱瘡なる感染症のために男女の構成比が崩れてしまった世界が舞台になります。

将軍も女、老中も女…

男女逆転と書きましたがニュアンスが、チト、違います。
生産が女なら出産(当然!)育児も女、
この世界における男の役割はただ種付けだけ、そのために疱瘡に感染せぬよう外にも出歩かずひたすら家に篭るわけです。
卵子が月一個であることを鑑みれば、その程度の男女比アンバランスでそこまで精子が払底するか?の疑問はありますが、江戸時代全体、少なくても終盤に差し掛かる時点で赤面疱瘡ワクチンができるまで、この世界観で進みます。

更にいまひとつの重要な設定は、名を残した女たちは皆、男名前で歴史に名を刻んでるということなのです。
大河の『おんな城主直虎』と同じ設定、時系列からしてこちらの方が本家本元となりますね。
幕府首脳だけでなく、ボク女子の平賀源内、出来んぼママの高橋景保等々、こんな具合に。
これがプロローグ部の問題提起にして、終焉の鍵となるのですがそれは後程また。

ここで難点に話を移すなら、やっぱ 歴史=為政者の歴史 になってしまった事でしょう。
お千恵の家光と平行して名もなき庶民の女・おさとの生涯も描かれてた序盤の流れを期待したのですが…
終盤に掛けて赤面疱瘡の治療法が見つかり男女比アンバランスの大前提が崩れてしまった以上無理からぬ事というも、やっぱ残念でした。

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終盤に掛けての治療法発見が、物語の転機でしょう。
無事男社会に戻り物語も終焉かと思いきや、迷走台風、将軍御台とも♀になっちまって…
どうなるかとハラハラしたら、見事最後にオチがありましたね。

ええ、江戸開城の段で。
徳川幕府が女の手によって動かされてたと列強に知れたら、侮られてたちまち植民地にされてしまう、
(これ、序盤おける鎖国の理由でもあります)
そのためには徳川家があってはならず、慶喜処刑は譲れぬ線、
と強行姿勢の西郷隆盛の前に、フライング気味で飛びだした和宮(男装の♀)が切り札の宸翰を叩きつけます。
それを読むや西郷、

「御台様は明らかに皇女様。ならば必然、家茂公は♂ということになりますな。
 歴代将軍も男名前ということを考えれば恐らくはみな♂。
 (♀だったというのは)大方口さがない♀どもの噂話でしょう」

と機転を利かせ、四方丸く治めるのです。
以後はそれを事実とすべく話が進みます。
例えば冒頭言った天璋院(♂)が、(天璋院として)和宮付女中を『ほとがら』に収め男御台としての自らの存在を消す、といった具合に。
そして時は明治となって、全編のパラレルワールドは見事現実と交わりファンタジーは終結するのです。
現実と交わり現代に至ることによって、16年にも渡った超長期連載漫画は、ただのSFファンタジーかられっきとした歴史小説へと姿を変えたわけです。

いやはや、お見事!

時にですよ。
そう。よしなが大奥は終劇しましたが、この投稿には更にオチがあるんですわ。
もし、この漫画の出だしもしくは、中盤から終盤に掛けての赤面疱瘡ワクチンの逸話が連載されてた時期が、
今のコロナ禍の下だったとしたら?
この、よしながふみ大奥は如何なる物語となってたことでしょうねえ。
思い馳せるだけでワクワクしてきます。

現実もまたSFワールド

ってことで、お後がよろしいようで。

2021-05-14 11:29:40



------------------------------【追記】----------------------------------


(2021.6.3)

読売が今日の朝刊に評を出してますね。
WEBでは読者限定記事になりますのでリンクは貼れませんが、

「なぜ男女を逆にすると 面白いのか」 「大奥」垣間見える現代

記者名入りの記事です。

つーことで、文化部 川床弥生さんとやら。
和宮は兄に成りすましたんじゃない、弟!

初歩的なミスは恥ずかしいぞ、あはっ!

「なぜ男女を逆にすると 面白いのか」 「大奥」垣間見える現代
2021/06/03 05:00
[読者会員限定]
 疫病で男性が極端に減り、将軍をはじめ、女性が中心の世界になる――。男女が逆転した江戸時代を舞台にする、よしながふみさん(49)の漫画『大奥』(白泉社、全19巻)が完結した。3代将軍・家光の時代から幕府の終焉しゅうえんまでを16年かけてつづった大作。よしながさんはジェンダーがテーマではなく、「エンターテインメントとして描いた」と言うが、物語は単なる娯楽の域を超え、現代を生きる私たちに多くのことを問いかける。(文化部 川床弥生)

よしながふみさん 16年かけ完結
吉宗(中央)ら作中に登場した歴代将軍たち (c)よしながふみ/白泉社
和宮(上)は家茂(下)の思いを継ぎ、江戸を守るために西郷隆盛と対決する
 若い男性が死に至る「赤面疱瘡あかづらほうそう」で、家光が死んだ。乳母の春日局はその死を隠したまま、家光の隠し子だった少女を家光に仕立て上げる。そこで跡継ぎを作るために設けられたのが、美しい男子ばかりを集めた「大奥」だった。男性はさらに減り、将軍家も大名家も女性が男の名を名乗り、跡を継ぐ世の中になる。


 主な舞台が江戸城であるため、登場人物同士の関係は濃密だ。本来ならあり得ないはずの恋や出来事などを大胆に描く一方、「生類憐あわれみの令」など、歴史上の出来事は忠実に描いた。「史実という縛りがあったからこそ考えに考え、自分一人の発想では生まれなかった展開にもなった」

 作者自身、描きながら気づかされたことも多かったという。例えば物語の後半、和宮と14代・家茂の関係。将軍が女性なら、正室の和宮は男性のはずだが、和宮は兄になりすました女性。つまり女同士の偽りの夫婦だった。「和宮が他の男性と恋に落ちる展開もあり得たけれど、家茂があまりにいい人で、描いているうちに2人の仲が縮まった」

 恋人でも家族でも、友達でもない。子供ができない2人は養子をもらう。その関係を描くにあたっては、現実社会の機運に後押しされた部分があった。「今は人間関係に、友情や恋愛といった決められた名前をつけなくてもいいという感じがある」。周囲からも「新しい」「いい関係」と評価が高かったという。「私は面白いと思って描いただけですが、いまだ結婚や出産に縛られることがあるからこそ、和宮と家茂の関係にひかれる人が多いのかもしれません」

 名に縛られぬ関係――。実は当初、本作は「(将軍家を巡る)血族の業の話になるはずだった」。しかし、いつしか「血は関係なく、志を一つにした人たちの物語になっていた」。

 家茂が若くして死んだ後も、和宮は江戸を守るため、天璋院らと無血開城を実現させる。「誰一人、徳川の血を引く人間がいないのに、志を一つにしたチームになる不思議。血に縛られた大奥が終わり、未来が開く感じに描けました」

 10代・家治のときに「赤面疱瘡」を防ぐワクチンを開発したのも、血縁に関係なく集まった者たちだった。そして、男性の数が元通りとなり、私たちが知る歴史へと戻る。「大奥の悲しさ、徳川の滅びの話を描いてきたつもりが、思った以上にさわやかな結末になったのは意外でした」

 2004年に連載が始まり、雑誌では20年末に最終回を迎えた。ドラマや映画にもなり、累計発行部数は600万部超(電子版を含む)。文化庁メディア芸術祭優秀賞など多くの賞も受けた。ジェンダーの問題を取り上げた作品と紹介されることも多いが、それが狙いではなかった。

 ただ、こうも思う。「なぜ男女を逆にすると面白いのか。読者も描いた私も、女性が当たり前に活躍している世の中だったら、果たしてそう感じたかな」。やはり、現代だからこその物語なのだ。くしくも「赤面疱瘡」が蔓延まんえんした世界は、今のコロナ禍と重なる。

 「世の中がそういうことに関心があれば、そういう読み方ができる。今の社会が思うところとつながっているのかもしれません。物語を受け取って何を思うかは、それぞれの感じ方次第なのです」