『AKIRA』の作画監督で知られ、最近では日本アニメ(ーター)見本市の『ブブとブブリーナ』の原案/脚本/監督を務めたなかむらたかしさん、『鉄コン筋クリート』の監督で知られるマイケル・アリアスさんの2人を共同監督に迎え、キャラクター原案をredjuiceが手掛けた。劇場公開に先駆け、なかむら監督に作品の魅力や裏側を聞いてみた。
[取材・構成:川俣綾加]
Project-Itoh『ハーモニー』
http://project-itoh.com/
――伊藤計劃さんの原作を読んで、どんな感想を抱きましたか?
なかむらたかし監督(以下、なかむら)
SFとしてのお話とそこに描かれている未来システムがあり、それとは別に霧慧トァンと御冷ミァハの2人の関係性も濃く描かれています。これをいかにアニメーションの物語にしていこうか、と正直悩みました。トァンとミァハの関係性をきちんと捉えて一つの筋を通したものが物語にできるんじゃないか、まずはここがズレないようにしようと思いました。
――なかむら監督はトァンとミァハの関係をどう捉えましたか。
なかむら
過去の出来事によって偽の魂が作られ、今度は肉体を管理する社会にやってきたミァハがいます。トァンはそのミァハを、知的で魅力的なカリスマ的存在だと捉えていました。ただ、その惹かれ方が、一緒に自殺するくらい純化したものだったんです。それくらいトァンはミァハに思い入れがあり、トァンはずっとミァハの亡霊を追いながら惰性で生きていました。非常に強い関係だったんです。
結果的に、トァンはひとつの答えを見つけるんですよね。原作にはありませんが、劇場版ではそれを描いています。
――そのラストは誰のアイデアだったんでしょうか。
なかむら
当初、シナリオには無い部分でしたが、絵コンテ作業で変えました。キャラクターの生き方を考えれば、トァンがミァハに求めたのはそういうことじゃないかと思うんです。
――映像を見ていて、常に誰かの目線のようであったり、トァンとキアンの食事シーンでは360度ぐるぐると何度も回るようなカメラワークであったりと、カメラワークが独特だと感じました。
なかむら
原作を読んでいて、感情が存在しない、ひとつの記号として記録されているようなお話だと思ったんです。そして別視点からその世界を見ている。「データ化された物語を誰かが読んでいる」という気分になる原作だなと。
トァンとキアンのシーンでは、日常的なシーンの中にミァハがじわっと入り込んできて、不穏なものが襲ってくる。そういった演出ができればと思いました。演出的な意図やカット数の制約もあって、一石三鳥くらい色々なことがのっかったシーンです(笑)
――トァンと父・ヌァザがインターポール情報調整官に追われ、絨毯がたくさん干してある屋上へと逃げ込むシーンは、全体的にシンプルでクリーンなイメージのシーンが多い中、とても印象的でしたね。
なかむら
絨毯の模様を美術に描いてもらって、それをデジタル上で貼り付けて、動きに合わせて影も入れています。昔だとこういったことはできませんでしたね。当初は洗濯した白いシーツを動かそうかなと思っていたんですが、デジタル部門のスタッフに聞いたら模様が入っていてもできると言ってもらえたので。であれば、ちょうどバグダッドのシーンだし、異国的なモデルを登場させようという話になって。
――刑事ものにありそうな雰囲気で、ひとつ際立っているというか。
なかむら
1958年に公開されたポーランドの映画『灰とダイヤモンド』に、マーチェクという男が真っ白なシーツがゆらゆら舞う中で銃で撃たれて死ぬシーンがあるんです。白黒映画で、あのシーンは鮮烈で。いい映画ですよ。
――最後に、読者にメッセージをお願いします。
なかむら
トァンとミァハの生きた証を感じ取っていただけると嬉しいです。
――ありがとうございました。
Project-Itoh『ハーモニー』
11月13日(金)より、TOHOシネマズ新宿ほか全国劇場にて公開
http://project-itoh.com/