第39話「受験Ⅰ」
俺に寄りそって立っている静香を
懸命に人ごみから守っていました。
朝の電車ラッシュは思った以上にきつくて・・・。
こんな朝っぱから電車に乗るなんて、本当に久々です。
昔、会社勤務していた頃は通勤ラッシュに泣かされたもんです。
塾で働くようになってからは、
お昼までゆっくり寝て、夕方から出勤とホント堕落しててさ、
通勤地獄なんてすっかり忘れてましたヽ(;´Д`)ノ
ギュウギュウに押し込められて、息をするのもやっとのことです。
周りのOLたちの香水の匂いや、オッサンたちのタバコくさい体臭に
死にそうになりながらも、俺はただ、必死に守っていました。
大切な静香を、変なヤツらにさわらせないようにと。
俺の口もとのあたりに、静香の髪の毛が触れていて・・・
なんだか、キレイな清楚な匂いがしたりして・・・
な、なんて言っている場合じゃねぇだろ(汗)
周りの客たちからギュウギュウに押しつぶされて
静香が弱ってないか心配なんだっつうの!!
俺の心配そうな視線に気付いた静香が、
まるで天使のように微笑みかえしてくれて・・・
あ~ん、もうメチャクチャ可愛い♪
(*´д`)アハァ
電車の中は人が多すぎて、とても会話ができるような状況でなく、
でもだからといって、俺たちは我慢してたわけでもなく・・・
人ごみの誰にも見えないところで・・・
手を握り合っていたわけで・・・
車内は暑苦しくて、俺たちの手も汗まみれになってましたが、
そんなこと気にすることなくお互いの手を硬く握り合ってさ・・・
たまに、静香がきゅ、きゅ、きゅって、
手を握ったり離したりして合図を送ってくるんです・・・
え? な、なんだ?
きゅ、きゅ、きゅ、きゅ
「 先 ・ 生 ・ 好 ・ き 」
(゚Д゚;≡゚Д゚;)
俺を見上げながらささやくなっ!!
全然合図になってねぇだろ(汗)
ぜ、絶対誰かに聞かれたよ・・・
今日は、運命の静香の受験日であり・・・
静香が、本当に行きたいと心から思った学校に・・・
入れるのか入れないのかすべてがきまる大切な日であり・・・
そして・・・
何といっても・・・
静香の冬の制服姿を見た初めての日であり・・・
「あ、先生、ここだよ、ここぉ♪」
な、なんとか7時に間に合った・・・ハァハァ・・・。
「よかった。もう全然こないから
心配したんだから。」
も、申し訳ねぇ・・・。
保護者にあたる俺の方が早く来てなくちゃいけねぇというのに、
遅刻ギリギリで到着するという不始末・・・
昨日、いろいろ考えてるうちに深夜になってしまい、
ようやくウトウトした結果、起きる予定だった1時間後に・・・
静香からの電話で目が
覚めました(汗)
「おっはよう♪ 先生、もう朝ご飯食べた?」
「・・・え・・・。」
「先生、聞こえてる? 私だよ? もしも~し。」
「・・・・・・!!!(;゚Д゚)
だ、大丈夫。すぐ行くから。じゃあまた後で。」
「あ、せんせ・・・」という静香の声を途中で切って、
大慌てで着替えて家を飛び出した失態は絶対に秘密です・・・
「ご、ごめんなぁ。待ったか?」
「うふふ。うっそだよ~ん。私も今来たとこ。行こ、せんせい♪」
静香の優しさにまた心をキュンとさせながら・・・
あ・・・れ・・・
制服じぇねぇか、お前・・・
試験なんだから当たり前だけど・・・
昔、夏の制服姿で俺の家の近くにまで、
押しかけてきたことはあったけど、冬ものは初めて見たよ・・・。
静香・・・
お前って何だか大人びた感じで、
女の子というより、女性らしさをすごく感じてたけど・・・
冬の制服姿のお前を見て・・・
俺・・・なんて言うか・・・ますます・・・
制服を着た静香の後ろ姿は、一つに髪が束ねられていて、
そして彼女のうなじがまたキレイでさ・・・
「・・・せい、せんせいったら!!」
「え?」
「もうぼ~っとしてないで、行こうよ。遅刻しちゃうでしょ?」
ご、ごめんなさい。き、君にみとれてて・・・
なんて絶対に言えねぇ・・・。
そんなわけで、電車に乗り込んだ・・・
制服姿の女子中学生と、中年のオッサンは、
どうにかこうにか、目的の駅に着いたようです・・・
どうやら、同じ目的地に向かう女子中学生たちが
大勢同じ駅で降りていました。
付き添いのお父さん、お母さんらしき人の姿も
チラホラ見えたりするわけですが・・・
俺みたいないかにも怪しい男が付き添いの
受験生は、多分というか絶対静香ぐらいなものでして・・・
俺って静香にとって迷惑じゃないのか!?
(((( ;゚Д゚)))アワワワ・・・
さっさと気付けよっとか言うな(汗
今さらのように後悔しながら、受験生たちの列に混じって
静香の横をとぼとぼ歩く俺でしたが・・・
「先生・・・。」
突如、静香が俺に話しかけてきて・・・
「ん? なに?」
「う、うん・・・あのね・・・。」
「どうした? 緊張しちゃったか。大丈夫だって。
みんな緊張してんだからさ。平気平気。」
へへへ。今この時こそが俺の役割ってもんじゃないですか。
不安を一蹴してやって、静香を落ち着かせてこそ、
さすが先生としての面目躍如ってとこですな。
「ち、違うの。先生、もしね、もし私が・・・。」
違うのかい・・・。俺ってホント役にたたないのね・・・。
「もし私が受かったら・・・」
あ~あ、今日ついてきたのは失敗だったかなぁ・・・。
「私、先生に改めて告白するから・・・。」
ほんと、どっちが付き添いなんだか・・・・・・
・・・・・・!?
今、なんか、おっしゃいました?(汗)
「・・・私、先生の教え子じゃなくなったら、
先生に告白するから・・・。
だから・・・頑張る・・・。」
し、静香・・・俺はさ・・・
お前には言ってないことがたくさんあって・・・
だから・・・俺は・・・
「せんせぇ・・・わたしね・・・」
一瞬、口を開きかけた静香は、すぐに思いとどまったように、
「ううん。何でもない。
今これ以上言ったら約束違反だよね・・・」
静香・・・
受験まで・・・あと1時間・・・。