【 ローズガーデン(R-18)】▼
2011.08.31 *Edit
もともと激しい感情をあまり持たない万理男は、それまで特に優しいわけではなかったと同時にそれが普通だったのだから、それ以降も態度は変わらなかった。つまり、その万理男が好きだった優奈にとっては、それで充分なのだ。むしろ、馴れ合う毎に態度が横柄に変わっていくその辺の男共よりも、ずっと好感が持てた。
華奢な身体にいっぺんに二人も胎児を宿している優奈は、やっと挙式と披露宴を終えたときには、もうお腹はぱんぱんだった。
大学生の万理男は、出来るだけ時間を作って優奈のそばにいていくれたし、初めて彼女は安定した妊娠期を手に入れ、ただ幸せだった。あまりに幸せで、優奈は時々怯えてしまう。
また、目が覚めたら別の現実が待っているのでなないかと。
「マリ・・・」
真夜中にはっと目を開けてすがりついてくる優奈に、眠い目をこすりながらも、万理男はしっかり抱きしめて安心させてくれる。長い間、彼女を苦しめていたと、彼は思っている。あの狂気の時間を償いたいと。
「大丈夫だよ。」
その一言にほっと安堵して、優奈は再び眠りに落ちる。
「すごいね、動いてるのが外からこんなに分かるんだ。」
イタタ・・・、とお腹を蹴られて顔をしかめる優奈のお腹をさすって、万理男は微笑む。
「・・・一度は殺されそうになっているから、怒ってるのかも。」
優奈は不安そうに大きなお腹を見つめている。
「大丈夫だよ、これからいっぱい愛して可愛がってあげれば。」
「そう・・・かな。」
「子どもはどうしたって、お母さんが一番なんだから。」
万理男にそう断言されると、優奈は安心する。その、自分にだけ向けられるやわらかい笑顔に満足する。
これは、本当に夢ではないんだ、と何度も噛み締め、ようやく息をつく。
まだ、慣れなかった。恋する相手がそばにいていくれる、その幸福に。
「身長ある子は、双子までは普通分娩できるらしいけど、君は小さいから、ちょっと厳しいかな。」
「でも、生みたい・・・。」
「うん、そうかも知れないけど、危険を冒す必要はないよ。君の命と引き換えたくはない。」
凛とした光を宿して目を細める万理男に、優奈はどぎまぎして顔を伏せ、そしてそうっと彼を見上げる。微笑む彼の笑顔に、そのあまりの至福感に優奈はくらりとする。
時間としてはそれほど長い間ではなかったのに、万理男の不在と、疑いの中で生きた辛く暗い時間の余韻がまだ身体の奥に残っていた。
しかも、二人は出会ってからまだ一年にも満たないのだ。
優奈にとっては、まだ一番熱く激しい恋の最中だった。
万理男の部屋は、双子の両親が使っていた夫婦用の大きな寝室に変わり、両親は本格的に海外に拠点を置いて、向こうに家を借りた。
万理男が使っていた部屋は書斎になり、真佐人は、会社が安定したのを見届けていつの間にか海外に出かけてしまっていた。両親のところではない。貯めたお金であちこち放浪して輸入関係に手を染めたり、と好き勝手に事業を展開している。いずれ、一つの部門として会社の中に組み入れる計画なのかもしれない。
海外を放浪している兄から、ある日、一枚の絵葉書が届く。
それは、万理男と優奈に宛てた、一言もない一面のバラ園の写真だった。まだ蕾のバラが、ほんの少しその花びらを開こうとしている、初々しくも心浮き立つ光景だった。
これから訪れる最高のときを、うきうきと想像させる宴の前。
二人はその光景をどこか懐かしい想いで見入った。
了
華奢な身体にいっぺんに二人も胎児を宿している優奈は、やっと挙式と披露宴を終えたときには、もうお腹はぱんぱんだった。
大学生の万理男は、出来るだけ時間を作って優奈のそばにいていくれたし、初めて彼女は安定した妊娠期を手に入れ、ただ幸せだった。あまりに幸せで、優奈は時々怯えてしまう。
また、目が覚めたら別の現実が待っているのでなないかと。
「マリ・・・」
真夜中にはっと目を開けてすがりついてくる優奈に、眠い目をこすりながらも、万理男はしっかり抱きしめて安心させてくれる。長い間、彼女を苦しめていたと、彼は思っている。あの狂気の時間を償いたいと。
「大丈夫だよ。」
その一言にほっと安堵して、優奈は再び眠りに落ちる。
「すごいね、動いてるのが外からこんなに分かるんだ。」
イタタ・・・、とお腹を蹴られて顔をしかめる優奈のお腹をさすって、万理男は微笑む。
「・・・一度は殺されそうになっているから、怒ってるのかも。」
優奈は不安そうに大きなお腹を見つめている。
「大丈夫だよ、これからいっぱい愛して可愛がってあげれば。」
「そう・・・かな。」
「子どもはどうしたって、お母さんが一番なんだから。」
万理男にそう断言されると、優奈は安心する。その、自分にだけ向けられるやわらかい笑顔に満足する。
これは、本当に夢ではないんだ、と何度も噛み締め、ようやく息をつく。
まだ、慣れなかった。恋する相手がそばにいていくれる、その幸福に。
「身長ある子は、双子までは普通分娩できるらしいけど、君は小さいから、ちょっと厳しいかな。」
「でも、生みたい・・・。」
「うん、そうかも知れないけど、危険を冒す必要はないよ。君の命と引き換えたくはない。」
凛とした光を宿して目を細める万理男に、優奈はどぎまぎして顔を伏せ、そしてそうっと彼を見上げる。微笑む彼の笑顔に、そのあまりの至福感に優奈はくらりとする。
時間としてはそれほど長い間ではなかったのに、万理男の不在と、疑いの中で生きた辛く暗い時間の余韻がまだ身体の奥に残っていた。
しかも、二人は出会ってからまだ一年にも満たないのだ。
優奈にとっては、まだ一番熱く激しい恋の最中だった。
万理男の部屋は、双子の両親が使っていた夫婦用の大きな寝室に変わり、両親は本格的に海外に拠点を置いて、向こうに家を借りた。
万理男が使っていた部屋は書斎になり、真佐人は、会社が安定したのを見届けていつの間にか海外に出かけてしまっていた。両親のところではない。貯めたお金であちこち放浪して輸入関係に手を染めたり、と好き勝手に事業を展開している。いずれ、一つの部門として会社の中に組み入れる計画なのかもしれない。
海外を放浪している兄から、ある日、一枚の絵葉書が届く。
それは、万理男と優奈に宛てた、一言もない一面のバラ園の写真だった。まだ蕾のバラが、ほんの少しその花びらを開こうとしている、初々しくも心浮き立つ光景だった。
これから訪れる最高のときを、うきうきと想像させる宴の前。
二人はその光景をどこか懐かしい想いで見入った。
了