足利事件取調の録音テープの複製を、「証拠の目的外使用禁止」にあたるとするのは間違っている
- 2010/01/23
- 02:37
◆菅家さんの録音テープ、報道陣への配布見送り
栃木県足利市で1990年に4歳女児が殺害された足利事件で、昨年6月に釈放された菅家利和さん(63)に無罪を言い渡す再審の公判で、菅家さんの弁護団は法廷でテープが再生された後、報道機関にテープの複製を配布する考えを示していたが、21日の開廷前、配布を見送ると表明した。
佐藤正信裁判長は開廷の際、「弁護団による今回の配布は、刑事訴訟法で禁じた開示証拠の目的外使用にあたるので、差し控えるべき」と指摘した。
(2010年1月21日10時57分 読売新聞)
これは改正された刑訴法281条の3により、「被告人または弁護人は証拠の目的外使用」が禁止されたことに基づくものです。
しかし、この規定は大変問題ある規定です。
日弁連HPより
刑訴法改正法案から証拠の目的外使用条項の削除を求める会長声明
(引用開始)
その立法趣旨は、供述調書などを対価を得る目的で第三者に売却したり、被害者や第三者のプライバシーを含む証拠をインターネット上で公開するなどの弊害に対処するためと説明されている。当連合会は、こうした弊害を防止するために必要な範囲で開示証拠の使用制限条項を設けること自体に反対するものではない。
しかしこの条項は、証拠の内容を問わず、また公開の法廷に提出された証拠か否かを問わず一律に使用禁止の対象としていることから、その使用理由が如何に正当なものであったとしても、審理の準備以外の目的で開示証拠を使用することは全て禁止されることになり、被告人の防御権を不当に制約することは勿論、裁判公開原則や報道の自由とも抵触するおそれが大きい。
(中略)
無罪を訴える被告人が、支援を求める文書等において、有罪の根拠とされている鑑定書や被告人自身の供述調書の一部を引用することは現在広く行われている。こうした言論活動は、被告人の防御にとって重要な意味を持つものであるが、改正案によれば、こうした言論活動も全て禁止の対象となる。
(引用ここまで)
菅谷さんの取調録音テープ公開には「供述調書などを対価を得る目的で第三者に売却したり、被害者や第三者のプライバシーを含む証拠をインターネット上で公開する」などのおそれがあるのでしょうか??
あるわけありません。
裁判は公正さを保つために公開を原則としています。その公開法廷で一度公開された証拠を以後非公開にして検証対象にさせないというのがそもそもおかしな話です。
だいたい何をもって「目的外」というのでしょうか?その裁判を検証しようとするのも「目的外」というのなら、およそ証拠を法廷の外には持ち出せないことになり、刑事裁判は密室裁判に等しくなります。
この証拠テープを公開し国民の検証にさらさないで、どこが「司法の民主化」なのでしょう?
司法の民主化と言えば裁判員制度があげられますが、実際は裁判員に対し評議内容について守秘義務を課し、かつ罰則まで設けるなど、裁判員裁判の検証が困難にされています。
司法はちっとも民主化されておらず、逆に秘密主義が深まり、より国民から遠ざかっているのではないでしょうか
証拠の目的外使用禁止について青法協は次のような問題点を指摘しています
(1)研究者や報道関係者等の検討を制約し、ひいては裁判批判を封ずることにならないか
(2)裁判係争中に社会的支援を呼びかけているような案件においては、弁護活動の一環としての支援活動に萎縮効果をもたらすのではないか
(3)学術的利用も制約されるのではないか
(略)
(7)そもそもこのような漠然的かつ一般的な規制は裁判の公開原則や国民の知る権利を制限するものではないか
私はこのような目的外使用禁止条項は撤廃すべきだと考えています。この改正が間違っていたのです。
弁護団や日弁連には、是非裁判所に抗議して目的外使用にあたるという裁判長の指摘を撤回させて欲しいと思います。
とりあえず、産経新聞より、公判廷で流されたテープの書き興しです
テープ再生1
テープ再生2
テープ再生3
テープ再生4
テープ再生5
テープ再生6
テープ再生7
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