Ａｆｔｅｒｎｏｏｎ　Ｃａｆｅ

前の天皇の政治利用？のエントリーですが、前半と後半で矛盾しているのではないか、と感じた方がおられるかもしれません。（前のエントリーを先にお読み下さいm(_ _)m）

前段では、天皇と習近平国家副主席との会見のセッティング要請を、特に問題なし、宮内庁は騒ぐべきではないとしながらも、後段では、こういう外国との要人との会見のような「公的行為」はどうしても政治的思惑は排除できない、と書いているからです。
天皇の政治利用はもちろん許されるべきではないので、後段で書いたようにこのような会見という公的行為が政治的色彩を帯びるのなら、前段で特に問題なしとするような書き方は矛盾して見えますね。
あとから読み返してみて若干説明不足だったかな、と自分で感じました^^;
なのでもう少し追記したいと思います。

宮内庁は今まで天皇と外国の要人との会見を散々行ってきたのに、この中国の副主席との会見は「天皇の政治利用だ」としています。しかしその根拠は「一ヶ月ルール違反」なので、それでは理由になっていない、また、他の外国要人との会見と比してもとくにこれだけ政治利用だと宮内庁が言うのはおかしいだろう、ということを前段で言いたかったのです。
それに後段の引用記事からわかるように宮内庁はさんざん天皇を政治利用するのに力を尽くしてきたわけですから、この会見が政治利用となることを本気で心配したのではない、宮内庁の意図は別の所にあってああいう懸念表明したのだと思われるのです。


習近平国家副主席との会見は、国事行為ではなくいわゆる「公的行為」に当たるものとされています。
結論から言えば、私はこのような憲法上の根拠のない「天皇の公的行為」をどんどん拡大して認めていくことには反対です。後段で述べたように天皇を政治的に使える可能性が広がるからであり、それでは憲法で天皇に国政に関する権能を持たせないために天皇が行える国事行為を限定した意味がなくなるからです。

従って、私はこの会見のセッティングは好ましいものだとは考えていないのです。この結論だけを見るならば、宮内庁と近い結論、と言うことになります。ただ、好ましくないと考える理由が宮内庁とは違うのです。民主党を批判するという事象だけを見れば自民党も共産党も同じですが、その中身は違います。それと似てますね。
（ただ、今まで外国の要人と会ってきたのに中国副主席に対してだけ「天皇の政治利用にあたるからやめときます」と急に言い出すのは、いささか他国との均整に欠け、外交上はあまり上手くないかもしれないとは感じますが。）


せっかくなので、順をおって所謂「天皇の公的行為」について考えてみたいと思います。

天皇が国政に関する権能を持たぬよう、憲法は天皇が行えることを限定的に列挙しました。それが国事行為です。
本来なら、天皇は私的な行為の他はこの国事行為しか出来ないとはずなのですが、実際には、国会開会で「おことば」を述べたり、外国の元首をもてなしたり、あたかも元首であるかの如くの行為をこなしています。

これは少なくとも天皇の地位にあるから行える行為なので、天皇の私的行為に含めることはできません。
では、憲法上で国事行為に列挙されていないこれらの行為はどのように考えるべきなのでしょうか。学説は大雑把ですが次のようなものがあります。

１．これらを国事行為の中に含まれる行為であるとする学説
２．これらは天皇の公的行為、天皇の象徴としての行為、として認められる、とする学説
３．天皇は憲法が列挙した国事行為のみが出来るのであって、このような「公的行為」はみとめられない、とする学説

１又は２のように、明記してある国事行為以外の行為、所謂公的行為を認めるのがどちらかと言えば多数説、３の公的行為はみとめず国事行為に限定する説は少数説といったところでしょうか。

私はどちらかと言えば「王道」が好きな方なのですが、コレばかりは３の学説を支持します。

天皇があたかも君主であるかのような風潮は肥大化する一方です。
諸外国では元首であると勘違いされてそうです。
国内では寄らしむべからず知らしむべからず、畏敬を要求する菊のカーテン
極狭い窓口から一方的に通じてのみ知らされる「皇族方のご立派で暖かいお人柄」なんていう大本営発表を判で押したように垂れ流すのは、露骨な情報操作ですね。
誕生日などに行われる記者会見なども質問事項は事前に決められています。チャールズ皇太子のように突撃取材、というか「ぶら下がり」できわどい質問をして本音を引き出す取材なんて、日本ではオソレオオクテありえません。
あんな小さい子どもにまで歯が浮きそうな敬語を右に習えで乱発するのを異常と感じない感性は、民主主義社会の感性ではありません。

また一例として、国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること、批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証することを、マスコミは「天皇ヘイカはこれらの文書を決裁した」と言います。
「決裁」という言葉を使っているのです。
決裁とは、権限のあるものが部下が提出した案の可否を決定することです。これでは天皇に権限があるみたいではありませんか。

前もエントリーに書きましたが、日の丸君が代や、天皇の在位祝賀記念など、君主であるかのような演出は強まる一方です。
「公的行為」を認めない（またはかなり厳しく制限する）というのは、今までの慣習からすればかなり現状からかけ離れているとの批判もありましょう。しかしこの公的行為が天皇を君主であるかのような印象を内外に植え付けてきたのです。
もう歯止めをかけなければ、国民主権の精神的基盤はますますもろくなるだろうと私は感じています。

公的行為を認める学説でも、この行為の範囲が不当に拡げられたら天皇の行為を限定した憲法の趣旨に反するとして
①公的行為は政治的性質を持たないものであること、
②内閣の責任の下に行われるべきであること
を条件としてその限りで認められるべき、としています（佐藤功著　日本国憲法概説p.355参考）
しかし、一見政治的性質がない儀礼的な行為に見えるものでも、その実政治的意図が背後にあったりするのが現実です。それは平野官房長官の「日中関係の重要性にかんがみてぜひお願いする」との言葉に表れているとおりです。

内閣が政治的に有利に外交を進めるためになんとか天皇にお出まし願いたい、でもその意図は隠したいと考えたら、もはや内閣は歯止めにはなれませんし、事実なってこなかったのです。
それは、前の記事で引用したブログ「社会学者の時評」のエントリーがあげてるように、政府や宮内庁は天皇を元首と見間違うばかりの扱いを推進してること、天皇がイラク派遣の自衛隊を直接慰労してること、などを見れば明らかです。
従って私は１，２の多数説では有効な歯止めは期待できないだろうと思うのです。

そんなわけで、宮内庁や自民党やマスコミが一ヶ月ルールをもって「政治利用だ」と騒ぐのはおかしいけれど、さりとて国事行為でないこのような公的行為にはもともと積極的に賛成できないし、むしろ懐疑的である、という自分の意見を明確にしておこうと思ったエントリーなのでした。

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