高校時代にH.G.ウェルズの短編集をよく読んだ。とくに『タイム・マシーン』と『くぐり戸』が好きだった。主人公、タイム・トラヴェラーが乗るタイム・マシーン。未来のピラミッドの中に引きずり込まれていたタイム・マシーンを元の場所に戻し、またがって、その恐ろしい未来社会の時間から逃げ出す。わくわくしました。
『その自分がいる時間から逃げ出すための乗り物』。その意味で、『私にとって自転車はどれもタイム・マシーン』なのです。とくに古い車両はよい。
もう、土に帰りかかったエルズウィック・ホッパ。もうロードスターの良いものは手に入れるのが難しい。これも、落穂ひろいです。表面がぼそぼそに錆びていた。しかし、19世紀からある名車のメーカーなので、回転式のワイヤーブラシで錆を落とし、さらに薬品で落とし、防錆処理をして、塗師に下塗りをしてもらったあと、耐水ペーパーで表面をならすこと2回(2度の下塗り)。なんとか目立たないぐらいまでにして、黒く塗った。それでもけっこう凸凹がある。しかし、私が生きている間は大丈夫だろう。
思えば、英国なら、ロボリックのエナメルで塗りたくってそれでよしとしているのだから、焼き付け塗装でここまでやったのだから上等だろう。ヘッド小物は中古ジャンク品が一箱ある中で、ひとつだけ合うものがあった。90年前の自転車の部品だから奇跡に近い。
このフレーム、塗り終わってから5年ぐらい組み立てられないでいた。しかし、自分の28号が、もう分解整備をしないといけない限界に来ているのだが、スペアの車両が無いので、自転車の上で生活している身としては、どうしても1台何とかしないといけない。1号車は部品をはぎ取られているし、重量運搬車は『バイクのヘルメットを運ぶのに具合がよいので譲ってくれ』と言われ譲り、仙人クラウドも持って行かれ、”医者の不養生”、状態で自分の28号を分解整備してしまうと、毎日使う自分の日常自転車が無い。
このエルズウィックも、リムは完全に穴が開いて朽ち果てていた。リムだけはどうしても替わりが見つからなかったので、1950年代の物を入れている。今後の課題だが、このままでも別によい。うまく伝世すれば、次の人がフレームと同時代のリムを探せばよい。
原則、この車両は人に見てもらうとか、どこかへ展示するわけではないので、私が乗って調子が良ければそれでよい。私がいなければ、所詮スクラップになっていた車両だ。一番重要なのは、『当時の風情が出て』『調子よく快調に走ること』。それに乗れば、英国で過ごした日々がよみがえってくることがなによりも、第一の目標。それを毎日の日常に用いる。
もうずいぶん長いこと置いてあった、頼まれもののラレーのフロント・フォークにキャップを打ち込んだ。このラレーのチューブラー・クラウンは難しい。ラレーは大メーカーだったから(ノッティンガムでの時代の話。台湾製ラレーは除外)、クラウンにキャップを、すごいプレス機で打ち込んでいる。ヘッドバッジも同様で、まず無傷では外せないのです。ヘッドバッジは多くの場合、とろうとすると変形するか千切れます。これも、ずいぶん変形していた。さて、カタチを見苦しくないところまで修正して、再度、ダメージを与えないように打ち込む。こういうことは、”作業では出来ない”。こうすればカタチが修正できる、それで歪みと変形を直して、どうやって打ち込むか?マニュアルは無いので、解決方法がひらめかないかぎり作業は始められません。
昨日、やり方がひらめいたので、ようやく歪みと変形を直し、打ち込むことが出来た。その間、どこか脳の深いところで、どうやったら直せるか、ず~~~っと検索がかかりっぱなしになっているのだと思う。数学の証明問題がひとつ解けるようなものだ。やれるもんならやってごらん(笑)。そもそも無傷で抜くことすら難しいはず。
ヘッドバッジのリベットも難しかった。これも思いがけない裏技で解決した。年内あと10日ほどだが、こうしたことをあと3台やって発送して、新車を組んで発送するのが2台ある。年末はいつもせかされて自由が利かない。
なんとか来年の年明けは、タイムマシーンで現実から逃げたいと思っている。