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偏愛音盤コレクション序説 从从从从
2019年の年間ベスト記事です。40枚選出させてもらいました。

バンド名/アルバム名
(国名/レーベル/ジャンル)

ジャケットはbandcampにリンクしてあります。DIES IRAEさんのように。

それでは、あしからず。



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10
■ Takafumi Matsubara / Strange, Beautiful And Fast

(Japan / Selfmadegod Records / Technical Grindcore)
現Retortion Terror、Formless Masterで、Mortalized~Gridlink~Hayaino Daisuki等で活躍してきたレジェンドのソロ名義作。Unholy GraveのHee-Chung氏(R.I.P.)に捧げられた作品。Matsubara氏自身、脳梗塞を経ての制作だったよう。国境と世代を超えた様々なゲストを迎え、氏が衝撃を与え続けてきたテクニカル&ファストな意匠を貫いています。この生命を感じる徹底的なグラインドコアの象徴サウンドを再生して、心が揺さぶられないエクストリーム・ミュージック・ファンは存在しない筈。Gridlink『Amber Gray』(DYMC067)にあった「複雑に絡み合っているギター、絶叫、破壊的なリズムを合わせて、残虐な戦闘シーンを彷彿させる音楽」をスケールも生々しく。

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■ Obscuring Veil / Fleshvoid to Naught

(Belgium, Finland, Germany, Norway, Netherlands / I, Voidhanger Records / Avant-garde Black)
ÆvangelistやDeath Fetishist等でのMatron Thorn氏(Gt,Vo)、WormlustのH.V Lyngdal氏(ここではBa,Pfだった)、Gnaw Their TonguesのMories氏(ここではKey,Synth)、Kabukimono女史(Vo)、そしてUrgehalのJarle Byberg氏(Dr)からなるアヴァンギャルド・ブラックがデビュー。 Ævangelistのホラーなテクスチャーに、DsO台頭以降の不協和ゾーンに新風を送り込んだWormlustの世界線が交わる音像。諸氏の(これまでのキャリアから鑑みると意外に感じる)柔軟なテクニックで作り込まれています。

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■ Tomb Mold / Planetary Clairvoyance

(Canada/ 20 Buck Spin / Death)
今年聴いて中で、実際の再生回数が最も多かったのが、Tomb Moldの3rdフル。特に#2が多かった。音楽的にはDemilichからの影響を公言しているものの、個人的にはカナディアン・クラストとの共鳴がBolt Throwerを彷彿させるところですが、それが難解なアンサンブルを分かりやすく提示するのに繋がっている様な気もします。今回はそういったバンドならではの音が、多彩なインストゥルメンタルを用いた中弛み防止のアルバム構成に落とし込まれておりハマりました。

15
■ Blood Incantation / Hidden History of the Human Race

(US / Dark Descent Records, Century Media Records / Death)
コロラド州デンバーのコズミックなデスメタル・バンド。前作発表後、Morbid Angel、Cannibal Corpse、Immolationを始め数々のバンドと同じステージを共有した後にリリースされた2ndフル。『Colored Sands』並の激賞っぷりですが、「デスメタルの文脈を破壊しない程度の、多用な展開力のある長尺のライティング」にカタルシスがあるのだろうなと思います。Cのアルバム以降のMorbid Angel~Mithras、Sarpanitum等に通じるエクスペリメンタルな文脈と、宇宙モチーフの予測不能な音にビビります。同じ影響源があるのかもしれませんが、無意識的なMekong Deltaリフも印象深かったです。#3にDemilichのAntti Boman氏がゲストVoとして参加。アートワークは、Bruce Pennington御大。

17
■ Inter Arma / Sulphur English

(US/ Relapse Records / Death, Black, Sludge, Post)
体系を重視した現代シーンで、最も多様な音楽性を持つバンドの一つといえる、Inter Armaの4thフル。結果的なアート系スラッジを軸に、Gorguts、Deathspell Omega等の文脈を引き起こすポスト的な感覚が高まっていました。摩訶不思議な音楽性については、INVISIBLE ORANGESのインタビュー記事(英語)がとても参考になりました。Mikey Allred氏(エンジニア)を経由してYautjaと共振していた意識が、もっと多様に変化している現状が窺えました。dISEMBOWELMENT系の音もディグっているというのを見て、認知的ギャップの極みに達しました。

13
■ Weeping Sores / False Confessions

(US / I, Voidhanger Records / Death,Doom)
Pyrrhon、SeputusのDoug Moore氏(ここではGt,Ba,Vo) と、Stephen Schwegler氏(Dr)、Tchornobog等でのGina Hendrika Eygenhuysen女史(Vio)からなる、NYのデス/ドゥーム・トリオ。ミッドテンポ・ベースに、Swans~Unsaneをデスメタルの土壌で解釈したPyrrhonの(アヴァンギャルドとも取れる)音遣いと、構成上の押し引きが絶妙なVioが共存した佇まいがあり。Peaceville系のゴシックメタルや、Opeth以降のプログレとは異なった在り様に聴き惚れます。


16
■ Coffins / Beyond the Circular Demise

(Japan/ Relapse Records, Daymare Recordings / Doom Death,Raw Stench Death)
踊れるロウ・ステンチ・デスメタル。Second to NoneやCardiac ArrestとのSplitのリリース等を経てのフル作。様々な媒体で紹介されている各人のコンテクストが混じり合う、ドゥーム・デスメタルに更なるデスメタル/HCフェチが乗った快作。聴きまくってました。Autopsyルーツの神経衰弱グルームがいまの極東地下でスモークされたかの#3が特にお気に入りです。Chris Moyen氏によるアートワーク。

18
■ Cloud Rat / Pollinator

(US/ Artoffact Records / Grindcore)
「エクスペリメンタル・グラインドコア」等と局地的にいわれている、ミシガン出身の3人組。Moloch(UK)、Disrotted、Crevasse、Test(Brazil)とのSplitのリリース、WormrotやThou&Emma Ruth Rundle(Marriages)のサポート、GadgetとのUSツアー等を経ての3rdフル。女性Voのトーンに合った形で音域軽めな、視覚に訴えかけるグラインドコアをかき鳴らしています。現行シーンの地に足付いた音の数々を包含していく様で内容深いです。もっと早く知っていたかった……。Facebook上で、Takafumi Matsubara氏のソロ名義作を推してたのも最高ですよね。アートワークは、Renata Rojo女史(カリフォルニアの女性Vo D-beat、Torsoのアートワークも手掛ける人物)。

19
■ Haunter / Sacramental Death Qualia

(US/ I, Voidhanger Records / Black)
Sleep White Winter、Entheogen、Devoted Iota Elusion等といったポストブラック~Deathspell Omega台頭以降のシーンで活躍する才人、Bradley Tiffin氏が在籍するバンドの2ndフル。オフィシャルのレコメンドで、Gorguts、Immolation、初期Opethのリスナーに推しているようなブラックメタル作品です。難解な作りに徹している訳ではなく、思わず陶然とするフレーズの応酬が繰り広げられます。『サクラメンタル・デス・クオリア』というワードセンスもそうですが、叙情的なライティングに、若さゆえの潔癖さやセンチメンタルな感覚を魅力的に溶け込ませる様相に、Neige氏の影も窺える世代の香り感じてました。PanegyristのElijah Gwhedhú Tamu氏によるアートワークも素晴らしく、幽冥の世界に誘われるよう。

22
■ Imprecation / Damnatio Ad Bestias

(US/ Dark Descent Records / Death, Black)
1995年の編集盤『Theurgia Goetia Summa』が、野蛮な地下シーンでの評価を集め、長年にわたり語り継がれたテキサスのカルト・バンド。Imprecationの、復活後2作目となる2ndフルが凄まじかった。確信犯的にリズムを狂わせたミッド・パート、人力を感じさせるブラスト、Incantationルーツの暗黒的トレモロ等といった原理主義的手法の数々を、現代的暗黒デス・メタルに適応させています。アルバム冒頭なんかは、Grave Miasmaがトリップした様な妙技の応酬で、前進するシーンの最新系の一つを垣間見ることができますね。暗く重く、ユニークなサウンドです。ジャケットを手掛けたのは、Sebastian Mazuera氏(Cerebral Rotのロゴ、Oxygen DestroyerやTorture Rackのアートワーク等を手掛ける人物)。

21
■ L'Acéphale / L'Acéphale

(US / Eisenwald / Black, Ritual Ambient)
ジョルジュ・バタイユの影響を公言するSet Sothis Nox La氏のワンマン・プロジェクトとして始まった、オレゴンのオカルト・ブラック/リチュアル・アンビエント。10年振りのフル作。氏自身がオカルトの追求から遠ざかっていたと語る、制約のない仕上がりです。Menace RuineのGeneviève女史を始めとした女性ゲストVoの起用から、ネイチャー・フォーク的なムードの高まりを感じさせる前半。Horna等のスオミ勢を彷彿させるRawなトレモロを主旋律に、90's MortisやStorm的なペイガニズムに接近していく中盤#4。そこからMz.412の帳の中で、ブラッケンド・デスのリフが黒く燃え上がる#6~#7の後半へと繋げ、広義のブラックメタルを凛として貫きます。

23
■ Mizmor (מזמור) / Cairn

(US / Gilead Media / Black, Doom)
オレゴンのヘブライ語(詩編、賛美歌、聖歌 等の意)ワンマン・ドゥーム/ブラックメタル。2016年『Yodh』リリース後、2度のRoadburn Festivalへの出演等を経てリリース、bandcamp上で話題を博した3rdフル。Bell Witch『Mirror Reaper』を手掛けたMariusz Lewandowski氏のジャケットが目を惹きます。音楽的には、長尺の楽曲にトラッド、クラシカルな影響が見られつつ、悲哀と安寧の激重轟音を、レトロフューチャーな感覚で循環させています。Doomed and Stonedのインタビュー記事(英語)を参照した結果、Black Sabbath直系、Burzum直系等の形容を、Burning Witchからの多大なる影響に対応させながら、Wolves in the Throne RoomやColdWorld以降のサウンドへと向かわせている。といった印象です。

49
■ Funereal Presence / Achatius

(US / Sepulchral Voice Records / Black)
Negative PlaneのBestial Devotion氏が稼働するカルト・プロジェクトの2ndフル。Negative Plane、OccultationのNameless Void氏(Gt)がゲスト参加。Vassafor、Temple NightsideのV. Kusabs氏によるマスタリング。今作も、Late 80's Black/Deathの渦中に、Fenriz(Darkthrone)を虜にした嗜好性が表れています。ジャンルの特色でもある、リチュアルでとっつき辛い部分を、Rawサイケなスケール感でポップに仕上げるアレンジ力に脱帽です。

25
■ Lord Mantis / Universal Death Church

(US / Profound Lore Records, New Density / Blackened Sludge)
キング・オブ・ブラッケンド・スラッジ、Lord Mantisの復活作4thフル。#2にPelicanのDallas Thomas氏(Gt)がゲスト参加。#8にYakuzaやCorrections House等でのBruce Lamont氏(Saxophone)がゲスト参加。Corrections Houseでex-TwilightのSanford Parker氏によるプロデュース。Lord Mantis周りのバンド他、Ataraxie、Wolvhammer、Minsk、Yob等を手掛けてきた仕事人Charlie Fell氏によるマスタリング。IndianのDylan O'Toole氏、Cobaltでも活躍するCharlie Fell氏のツインVoに、Nachtmystium~Avichiと渡ってきたAamonael氏と、Abigail WilliamsのKen Sorceron氏のコーラスが絡む異常な体制。新加入のBryce Butler氏(Dr)は非ドゥーミーなスタイルで、Lord Mantisの作風の変化が感じられます。特定のフレーズを何度も何度も反復して、Nachtmystiumのようなトランス感覚を誘発させるところが大好きです。

11
■ Deiphago / I, The Devil

(Philippines / Hells Headbangers Records / War Black,Death)
『ウォー・べスチャル・ブラックメタル・ガイドブック』で「究極破滅的オーディオ拷問兵器」と翻訳/紹介されていたバンドの5thフル。近年Gorgutsが引き合いに出されるバンド、Corpse Gardenで叩いていたErick Mejia氏(Dr)が史上最も烈しいプレイで参加。Kurt Ballou氏によるプロデュース(!)。Brad Boatright氏によるマスタリング。分厚い音作りや、至極体験的なサウンドテクスチャー等、Deathwish.inc系のグラインド/パワーバイオレンスに大接近しているよう。本質的にグラインドコアよりグラインドコアだと言いたい、開いた口が、塞がらない、目を開く、内容、で、宇宙と、破滅の、カタルシスを、見させて、くれます...タタン・タンタン・タタン・タンタン・タツタタタツタタタツタタタツタタ・デーデデ・デーデデ・デー……。

26
■ Ataraxie / Résignés ( 永久なる離脱 )

(France / Weird Truth Productions, XenoKorp, Deadlight Entertainment / Death, Doom)
Weird Truth Productionsとの良質な契約を継続し、Bethlehemトリビュートでも局地的な話題を博すフランスのデス・ドゥームメタル。4thフル。デスメタル派生のトゥルーな音作りを基調に、黒い静的なパートを差し込み陰鬱な世界観を構築する、ジャンルのツボを押さえた作風はそのままに。ex-Fatum ElisumのHugo Gaspar氏(Gt)と、Jonathan Théry氏(Ba,Vo)とVoid Paradigm内で交流があったJulien Payan氏(Gt)の加入が影響してか、さらなる展開的な奥行きが感じられる仕上がりとなっており聴きごたえ満点です。

20
■ Arkhaaik / *dʰg̑ʰm̥tós

(Switzerland / Iron Bonehead Productions / Blackened Death)
Helvetic Underground Committeeに属する、正体不明系なスイスのデス/ブラックメタル。青銅器時代にまで遡る古代インド・ヨーロッパ言語を表現するとされる1stフル。同郷のBölzerを含むIron Bonehead Productionsのカラーや、(歴史的関心を示す)コミュニティ内のバンドと通じる、闘争心を煽る密教的な雰囲気が充満しています。前情報なしで聴き、ハマり、トライバル・ビートと暗黒リフのミックスという点でTombs等のポスト/ブラック・ドゥーム文脈に近いのかなと思っていました。が、改めて掘り下げて聴いたところで、Bölzerサイドの野蛮なエクスぺリメンタリズムが肝要な音だと気付かされまして。

27
■ Vircolac / Masque

(Ireland / Dark Descent Records, Sepulchral Voice Records /Death )
Invictus Productions(Tribulation、Diocletian、Portal、Bölzer、Negative Plane等をリリースしてきた名レーベル)のオーナー、Laoghaire氏(Vo)擁するデスメタル・バンド。2016年『The Cursed Travails of the Demeter』名作EPから約3年振りとなる待望の1stフルです。現行OSDMを、Invictusのエクスぺリメンタリズムで覆い尽くしたような作風に。サイケの角度からフューネラルを醸すやり口は、あくまでも飄々としていますが、Autopsyのデフォルメ技術に接近している印象を持ちます。これは先進的な自国シーンに、さらなる奇妙な影を差し落としている状態。Alter of Plagues、Malthusian等々の、70'sプログ的なメソッドもほのめかして。

28
■ Ossuarium / Living Tomb

(US / 20 Buck Spin / Death)
LoweredのNate McCleary氏(ここではGt)や、ex-TrollのRyan Koger氏等が在籍しているオレゴン州ポートランドの新世代デスメタルがデビュー。(Blood Harvestがデモをリリースし、20 Buck Spinがスタジオ作で回収するという素晴らしいコース)。そしてBrainoilのGreg Wilkinson氏によるプロデュース、Dan Seagrave氏によるアートワークといった絶好の条件で制作されています。派手ではないですが、何回も聴いて理解したくなる作品です。激ロウOSDMを室内楽的に収縮させていったみたいな、質素な闇鍋的マインドが渋く興味深い。そんな中、EvokenミーツIncantation的葬式パートが、一気に聴き手を捉えてきます......!

29
■ Mammoth Weed Wizard Bastard / Yn Ol I Annwn

(UK / New Heavy Sounds / Doomgaze)
UKドゥームゲイズ/ストーンゲイズの3rdフル。True Widow、King Woman等のリスナーにお勧めします。ウィッチ系にファンシーな雰囲気を持ち合わせるJessica Ball女史の歌唱と、スペーシーなエフェクトを効かせた現実逃避の捗るバッキングの相性に魅了されます。James Plotkin氏によるマスタリング。

30
■ Vaura / Sables

(US / Profound Lore Records / Goth, New Wave, Post Black )
Kayo DotのToby Driver氏(Ba,Gt,Key)、ex-Shakespace等でのJosh Strawn氏(Vo,Gt,Key)、DysrhythmiaやGorguts等でのKevin Hufnagel氏(Gt)、前作発表後Tombsに参加していたCharlie Schmid氏(Dr)による、NY産ポスト・ブラックメタル。ニュー・ウェーブ化した3rdフル。デカダンです。作風の変化から思い起こさせる、Paradise Lost1999年作『Host』のコンテクスト、Kayo Dot『Coffins on Io』にあった都会性やポップネス、Shakespace『This Sleeping Heart』のThe Smashing Pumpkins要素の昇華など。

31
■ Nibiru / Salbrox

(Italy / Ritual Productions / Psychedelic Sludge, Drone)
「Ritual Psychedelic Sludge」なるジャンルで言い表されている、エノキア語プロジェクトの5thフル。禅~宇宙のドゥーム・ドローン空間に、Mz.412やNeurosisの影響とデプレッシヴな雰囲気が充満した作風を追求しています。アジア宗教的な側面から、宇宙的恐怖を醸し出すやり口は相変わらず独創的ですし、汚泥の如しスラッジ・リフ吐き出した後のデトックス感がね。Bell Witch、Chthe'ilist、Full of Hell、Xibalba、SubRosa等を手掛ける、From Ashes RiseのBrad Boatright氏によるマスタリング。

33
■ No One Knows What The Dead Think / No One Knows What The Dead Think

(US, Japan/ Willowtip Records,Daymare Recordings/ Technical Grindcore)
Abort Masticationでex-CoholのKyosuke Nakano氏(Dr)、ex-Discordance Axisでex-GridlinkのJon Chang氏(Vo)と、ex-Discordance AxisのRob Marton氏(ここではGt,Ba)によるテクニカル・グラインドコア・プロジェクトの1stフル。2019年に、Jon Chang氏の歌唱が聴けるのが嬉し過ぎた。烈火の如き音速サウンドは、銃夢(特に無印のTUNED編以降)やニーアオートマタ等を彷彿させる世界線にて、生命の熱量を強く感じさせます。トータルではNakano氏のバランスで、テクニカル・グラインドコア化させている感覚もあり。国内盤のKaraoke Versionで2度楽しめる傑作でした。

32
■ Misþyrming / Algleymi

(Iceland / Norma Evangelium Diaboli / Black)
アンビエント的な捩れっぷりで、Bandcamp界隈で衝撃を与えた『Söngvar elds og óreiðu』から約4年ぶりにリリースされた2ndフル。Skáphe、〇、Naðra等でのD.G.氏(Vo,Gt,Key)と、ex-Naðra、Carpe NoctemのHelgi氏(Dr)のユニット編成から、Naðra, Úrhrak等でのG.E.氏(Ba)、Carpe Noctem、〇、Naðra等でのTómas氏(Gt)を加えたバンド編成となり制作。BehexenのWraath氏とSvartidauðiのSturla Viðar氏がゲストVoとして参加。前作と比較しては、音の輪郭が明瞭になり、トレモロの妙技で聴かせる作風にシフトしてきています。やや近年のNightbringerに通じる疾走感と、近年型ブラッケンロールを取り込んだノリの良さがあり、アイスランドの同世代とDsO的不協和界隈の影響を克服した様な、音の批評/批判性を感じさせますね。

44
■ Darkened Nocturn Slaughtercult / Mardom

(Germany / War Anthem Records / Black)
2016年にBethlehemへ加入したOnielar女史(Vo)擁するブラックメタル。6年振りの新作にリアルで鳥肌が立ちました。ポーランド語で歌われる#2(Helvethetというモデルが作詞)、ブラッケンロールへの意欲を感じさせる#3。他これまでのコールド・ブラック的な世界観を発展させた、レンジの広い構成で突っ切ります。

34
■ Esoctrilihum / The Telluric Ashes of the Ö Vrth Immemorial Gods

(France / I, Voidhanger Records / Black)
単純だったりミニマムな音楽性でないにもかかわらず、僅か3年で4枚のフルアルバムをリリースしてきている、Asthâghulなる人物による不浄フレンチ・プロジェクトの4thフル。宇宙的恐怖の世界観をブラック/デスの先進的な技法で充足させる、多元な在り方が今はマストだと思いますし、そこにワンマン・プロジェクト特有の不自由の無さと、コズミックとサイケ・リチュアルを紙一重で聴き分ける審美眼があり。「あまりに盛り込み過ぎ故に洗練されてない」も、逆にボバ・フェットっぽくなっていて面白いです。

35
■ Teitanblood / The Baneful Choir

(Spain / Norma Evangelium Diaboli / Black, Death)
J氏(Dr)とNSK氏(Vo,Ba,Gt)の編成で活動するTeitanblood。Emanationの中の人ことCG Santos氏(Effects, Programming)と、Moontower Studiosを運営しGraveyardでも活躍するJavi Bastard氏(Lead Gt)が加入し、制作された目下3rd。各媒体で激賞されている80'sブラック/デスの混沌と昇華を堅持しながら、バンドとしての整合感を増し、よりアルバム全体で聴かせる作風となった様に感じられます。故に、彼らが人気を博す一つの要因となったぶっ壊れ感やエクストリーム性は減退傾向にありますが、リチュアルなデスメタル的に奥底に潜み醸し出されるでもなく、語りかけるような民謡然とした雰囲気に溢れていて聴きやすかったです。

24
■ Cerebral Rot / Odious Descent Into Decay

(US / 20 Buck Spin / Death)
FetidのClyle Lindstrom氏(Gt)が在籍するシアトルのデスメタル。2018年に1stデモ『Cessation of Life』がオレゴンのParasitic Recordsからリイシューされた他、話題を博し20 Buck Spinからデビュー。Carcassルーツの北欧グルーム、Demilichリフが、病んだUS系の(浮遊感すら感じさせるサイケ混じりの)腐臭ミッドテンポの中で蠢くような、様々な90'sデスメタル・シーンをパズル合わせにしたOSDM。ジャンルの特色を損なわずして意図的に崩していったようなスタイルに、現行シーンへの興味がさらにかき立てられますね。マスタリングに、Dan Lowndes氏(Cruciamentum:Gt,Vo)の名が。

36
■ Carcinoid / Metastatic Declination

(Australia / Memento Mori, Blood Harvest, Headsplit Records / Doom Death)
オーストラリアはメルボルンのドゥーム・デス。Memento MoriからCD化、Blood Harvestから12'化、Headsplit Records(Nekro DrunkzのDisgustor主宰)からカセット化されたという情報だけで期待値上がっちゃいますが、とても渋いです。シンプルなプレイパターンながら、何度も確認したくなる作風。Cianide『Death, Doom and Destruction』を台地にノリを追求した様な音に、人脈上のグラインドロック的な息遣いがあり、Necro Frost氏の手掛けたアートワークにはネクロな良さが滲みでる。1stフル。

37
■ Kaleikr / Heart of Lead

(Iceland / Debemur Morti Productions / Progressive Black, Death)
2018年にDraugsól というバンドから、より多様なサウンドを探求する形でスタートしたアイスランドのプログレッシヴ・ブラック/デスメタル・ユニット。Kaleikr(聖杯)が、Debemur Morti Productionsからデビュー。繊細です。「キングダムハーツ始まったんか」的な寂寞感のあるインストに始まり、不協和とネオプログレ(あるいはOpethウォーシップ)の感性が調和したリフを土台に、ヴィオラ(Árstíðir lífsinsのÁrni氏によるアレンジ)やピアノの音色を組み込んだ、先進的サウンドを紡ぎます。Rebirth of NefastのWann氏によるプロデュース、Valnoir氏によるアートワーク。

38
■ Vastum / Orificial Purge

(US / 20 Buck Spin / Death)
2015年3rdフル『Hole Below』のリリース後、Spectral VoiceとのSplitのリリースや、各メンバーのNecrot、Ulthar、Extremity、Mortuous等での目覚ましい活躍を経たVastum。Greg Wilkinson氏によるプロデュースの元で制作を行い、20 Buck Spinからリリースされた4thフル。関連バンドの作品群が仕上がっていただけに期待が高まるも、ややパンチ弱めで賛否両論が見受けられますが、何度も聴いているうちに良さが分かるようになるミックスにも思えます。私的には、譫妄、幻視、暴力、エロティシズム(バタイユからの影響公言)をモチーフとするバンドならではの表現を推し進めたと感じずにはいられない好内容でした。

39
■ Dekadent / The Nemean Ordeal

(Slovenia / Dusktone / Atmospheric Black)
6thフルも充実作でした。直近でThe Ruins of Beverast等とのギグを成功に収めていたスロヴェニアのバンド。便宜上アトモスフェリック・ブラックと形容されますが、Dekadent自体は特定の音楽性に収まることにこだわりません。Facebookの影響を受けたものの欄には、ドヴォルザーク、Darkthrone、Jimi Hendrixとあるものの、初期作品の時点ですでにDevin Townsend Projectが引き合いに出される独創性が、彼らのカルト・ステータスを輝かせます。全体のRawなトーンに、果てるようなメロウなパートやアトモスフェリックなKeyを加えていく非対称性のある展開が、相変わらず不可思議です。

40
■ Yerûšelem / The Sublime

(France / Debemur Morti Productions / Experimental, Industrial)
Blut aus NordのVindsval氏(Vo,Gt,Ba,Synth)とW.D.Feld氏(Synth,Industrial Pulses)による新たなプロジェクト。オフィシャルのレコメンドでは「Godfleshに、AutechreやCoilのエクスぺリメンタリズムを融合。そこで際立った、Neo-GothicのGtワーク、背後に漂う90's MayhemやThornsの実験性、ポストパンクの都会性、サイケ、ドリームゲイズ、地下インダストリアル・パルス、モダンで鮮明なエレクトロニカによるキレッキレのリズム」と目白押しで、Blut aus Nordのトータル90'sインダストリアル・リバイバルを呈示してきた印象。排他的要素を神聖の域にトランスさせる、逆説的な試みが至高。

41
■ Pissgrave / Posthumous Humiliation

(US / Profound Lore Records / Death)
Tim Mellon氏(Gt)、Matt Mellon氏(Dr)の兄弟を中心としたフィラデルフィアの野蛮。Pete Helmkamp氏(Abhomine,Angelcorpse,Revenge)の元を離れ制作、リリースされた2ndフル。前作に引き続き、Power Trip、Mammoth Grinder、Tomb Mold等を手掛けるArthur Rizk氏によるプロデュースです。ビルボードのインディーズチャート入りなど結構な話題を博した新作。通しで最後まで聴いた人がどの位いるのか謎ですが、乱れ打ち状態の序盤から、ドゥーム調の解脱していく終盤まで病的に仕上がっていました。「ずっとこんな感じか?!」と思いそうになるハーシュみ溢れる音ながら、Incantation風のテンポダウンやOrigin的なテクニカル・リフを加えた絶妙な展開がクセになります。

43
■ Mortiferum / Disgorged from Psychotic Depths

(US / Profound Lore Records / Death)
2017年の1stデモ『Altar of Decay』が、Blood Harvest、Profound Lore、Extremely Rotten Productions(UndergangのDavid Torturdød氏が運営するレーベル)、Graceless Recordings(LossのMike Meacham氏等によるレーベル)等からリリースされ話題を博していたドゥーム・デスメタル・バンドの1stフル。CruciamentumのDan Lowndes氏によるマスタリング。心象世界の奥底まで潜り込んでいく病的なドゥーム・デスと、慈悲なきライド・シンバルのハーモニーが楽しめます。Max Bowman氏(Gt,Vo)が、Quayde LaHüe(活動休止後のChristian Mistressメンバーがやってるバンド)に在籍している点が興味深く、実際インスト曲の#5にはその種の翳りがあるように思います。東海岸のArthur Rizk氏(Sumerlands,Eternal Champion)周りのシーンがすこしチラつきます。

42
■ Altarage / The Approaching Roar

(Spain / Season of Mist, Sentient Ruin Laboratories / Death, Voidgaze)
スペインの覆面過激派自称デスメタルによる3rdフル。後半になるにつれノイズ的に、破滅の美学感じる凄艶な動と静寂のコントラストを映し出します。4年で3作と制作ペースが早く、どの作品も話題を博すものの(秘匿性ゆえに)中々こういう場には出てこないし、難解っぽい音としてPortalが引き合いに出されますが、(Voidgazeなるbandcampのタグしかり)どこかシューゲイザー的な感覚を持ち合わせ、常に高次に組み替えてくる点では、オリジネイターの風格さえ感じさせます。

45

■ Laster / Het Wassen Oog

(Netherlands / Prophecy Productions / Post, Atmospheric Black)
W. Damiaen氏は、Gnaw Their TonguesのMoriesとのプロジェクトMystagogueで活動し、1stフル『And the Darkness Was Cast Out into the Wilderness』をリリース。S.氏とN.氏は、Solar TempleやImperial Cult等のメンバーとNusquamaで活動し、1stフル『Horizon ontheemt』をリリース。このように今年は各メンバーの他プロジェクトがアツかった中で、Dunkelheit ProduktionenからProphecy Productionsへの移籍作となった、Lasterの3rdフルも素晴らしかった。より広い間口に訴求している印象。ブラックゲイズとアトモスフェリック・ブラックの有機的なミックスを、多様な音楽的技法(ポストパンク、ジャズ、アヴァンギャルド等々)で彩り、現実逃避性の高いサウンドに仕上げてきています。これまでのLifeloverやVed Buens Endeが引き合いに出されていた独自性に、Enslavedの壮大さが加わった様な趣きは唯一無二でしょう。

46
■ This Gift Is A Curse / A Throne of Ash

(Sweden / Season of Mist / Blackened HC, Sludge)
ストックホルムを拠点に活動するブラッケンド・ハードコア/スラッジの3rdフル。GadgetのWilliam Blackmon氏によるミキシング、Cult of LunaのMagnus Lindberg氏によるマスタリング。#3にThomas Ekelund(Dead Letters Spell Out Dead Words)氏が、#4でCult of LunaのJohannes Persson氏がゲスト参加。David Deravian氏(2nd Gt)の加入作。剥き出しです。明瞭なメロディが増加し、暴動/破壊を描くリフやビート、ハーシュヴォイスの端々さえ、ささくれ立ってます。

47
■ Caïna / Gentle Illness

(UK / Apocalyptic Witchcraft Recordings /)
Crowhurstとも関りがあった、Andrew Curtis-Brignell氏のプロジェクト。ノイズ(ジャズ側面含み)が厭世的なインダストリアル・ブラックの文脈を引きながら、ポスト・ブラック、ダブ、ニューエイジ、ドローン等の要素をミーム的に吸収した、奇妙な8thフル。ジャンルに対しての既存のイメージ(先入観)があるだけ、音に矛盾や不協和のイメージが溢れてきます。プロジェクト自体は、Jesuからの影響を公言しており、作品にも「どこまで個人的にやって、どの程度まで測定してもらえるか」が、元来体系に備わっているジャンルらしさを感じます。そういう意味では、注目を浴びるような過去のProfound Lore からのリリースを後悔しているといった、Astral Noizeのインタビュー記事(英語)も合点が。

48
■ Encoffination / We Proclaim Your Death, O' Lord

(US / Selfmadegod Records / Doom Death)
Father Befouled他のGhoatことJBS氏(Gt,Vo,Ba,Dr)と、ex-Father Befouled等でのElektrokutioner氏(Dr)によるデュオ。オフィシャルのレコメンドに「Incantation、Rippikoulu、Morpheus Descends、dISEMBOWELMENTのファンには必須のアイテム」とある4thフル。他に類を見ない遅さ。シームレスに展開する楽曲にKeyが施していく感じで、デスメタル以外の音がなく、超然としたエクスペリメンタルでもないが、現象と受け取らずにはいられませんち。

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以上となります。

デモ、EP、Splitは省きました。今年は時代の変化をかなり感じていたため、このようなラインナップに。気になる作品がありましたら是非ご一聴ください。
例年より10タイトル少ないのは、半年ぐらい色々集中していた期間が続いたためです。とても遠い未来に10枚足している可能性がややあります。Angel Witch、Darkthrone、Enthroned、Exhumed、Cult of Luna辺りのベテランも超聴いてましたし、この記事書いてる途中でAndavaldやQuayde LaHüe等の魅力的なバンドも発見してしまいました。

管理人の身の上話としては、『オールドスクール・デスメタル・ガイドブック』上巻中巻の出版が大きかったですね。今年はこれにつきます。
下巻の執筆途中なので言えることは少ないですが、元々紹介したかった部分がそこにあるので楽しいです。それも終わって一息ついたら、ブログの更新に戻るか、別のこと始めるかしたいと考えています。


ご閲覧頂きありがとうございました。

それではまた。