ハンパない、空と海の青さが印象的だった。
そこは、石川県能登半島でした。
能登半島。あの、本州の真ん中らへんから日本海へぴょこっと突き出た、あそこです。
能登半島といえば、世界一長いベンチ(460m)があったり、海岸線を普通の車で走ることができる、「千里浜なぎさドライブウェイ」という世界でも珍しい砂浜の場所があったりと、地味に世界一がある場所です。
とはいえ、行ってビックリ見て圧巻。青い空!青い海!突き抜けた砂浜を車で走行!爽快!あーこりゃいいですね。
あたし、石川に、恋をしました。石川、好きだーー!!
はい。さて、ふらふらと車で能登半島へ辿り着いた私が今回出会ったのは、東間(とうま)君というハチヨンでした。
ニューヨークから帰ってきたばかりだという美大卒の東間くんは、ここ、能登半島で作品を制作しています。
「生活は?」ときくと、アルバイトをしながら、しかしほとんどの時間は作品づくりにあてているのだそうです。
「肩書きはどうします?」という質問に対し「“頑張り屋さん”にさせてください」と言う東間くん。
その言葉に、真剣さを感じてしまった、勝手に。
冬には雪で白く埋まるだろうこの能登半島で青い爽快な風が吹くなか、おじゃましたご自宅でいただいたショートケーキを頬張りながら、隣りに東間君のおばあちゃんも静かに同席して、インタビューは始まりました。
さて、どんな話が聞けるのか。
**************************
『生きてる意味』
東間章記(とうま・あきのり/職業:頑張り屋さん/石川県)
石川県出身。美術大学で油画を専攻するが、油画以外のさまざまな作品を多く作る。卒業後、NYへ。現在は一時帰国して、地元石川県で作品の制作中。1984年10月31日うまれ。
《本人サイト akinori towma are Works》
Extension of the Wish
東間くんはアート作品を制作しているそうですが、どんなものを作っているんですか?
この写真(下)が最も最近の作品です。今年、NYで個展をひらいたときのものです。
うわあ!これけっこうでかいよね!?
高さは180センチくらいあります。
牛や豚や鶏の骨が素材となっています。自分で食べたり、NYのレストランから拾ってきた骨ですね。
「Extension of the Wish」という作品です。
美術はいつからやっているの?
もともと小さいときから絵は描いてましたが、高校1年生の終わりぐらいに美大を受験すると決めたときに油画を始めて、大学では油画学科に入ったんです。
その後、絵以外のいろいろな作品も作るようになりました。
NYは芸術の中心地
美大を卒業した後はどうしていたの?
NYでしばらくデザイン会社にいました。でもまったく自分の制作ができないと思い、色々現地で情報を集めた結果、一度日本へ帰ることにしたんです。
その後日本でお金を貯めて、今度は語学学校の学生として、学生ビザを取得して再びNYへ戻りました。
ニューヨークかあ。なぜ、ニューヨークなの?
もともと大学2年生くらいのときには、美大を卒業したらイギリスかオランダの大学に行くつもりだったんです。でも色々な人に話を聞いて、NYに行くことに決めました。
NYは最も芸術活動の規模が大きくて、自分が得られるものも多いと思ったんです。
後に実際に行ってみて、NYがいいと思いました。
そうなんだね!でもそのままNYに居ずに、なぜ今また日本へ戻ってきたの?
骨の個展「Extension of the Wish」が終わって、次の作品を日本で制作することにしたんです。内容はまだ制作段階なので言えませんが、アメリカで作るのが難しい作品なんです。なので一度日本に帰ってその作品を作ってから、またいずれNYに戻るつもりです。
「生きてる理由がわからない」
作品を見せてもらうと、自然のものを扱った作品が多いように思うけれど、これには意味があるの?
なんていうか…僕は自然というか、”人智”をこえてるものにすごい興味があるんです。
というのは、ちょっと説明が難しいけれど、僕は生きている理由がわからないんですね。
だから自然だとか、自分たちが考えも及ばない大きな存在から、その答えが出てこないかなーと思ってるんです。そういうことを考えてると落ちつくんですよね。
なので、自分のルーツを探すような作品を主に作っています。
生きてる意味、わたしも知りたいよー
骨の作品「Extension of the Wish」もそういうコンセプトだったの?
そうですね。あの作品は牛や鶏や豚の骨など、自分たちの食べたものでできていて、それを墓石に見立てているんです。
以前、屠殺現場を見て思ったんです。こういう屠殺といったような現実のうえに、自分たちが存在しているんだなあって。
焼き肉屋で「お肉おいしいな〜。幸せ」とか言ってる時間も、タダで成り立っているわけじゃない。
「Extension of the Wish」は、社会の仕組みとして、屠殺もおいしい焼き肉も全部つながってるんだ、っていうことがテーマでした。
それを絵、というか現代美術を通して探ったり考えたりしているんだね。
やはり美術は、好きですか?
うーん、もちろん嫌いじゃないんですけど、作るのが気持ちいいからやってるわけではないですね。むしろ、キツいことのほうが多いです。
NYで個展をやるためのギャラリーを探してまわってたときも、僕の骨の作品の企画書を見て、「赤ちゃんレベル」だとか「汚い」だとか言われたりと、厳しいことのほうが多かったですね。
名刺を渡した瞬間、目の前で折られたり…。
それに、当時は英語での交渉だったんで、「え、なに言ってんの?」って顔をされることもあったし。しかも、持ってきた作品も骨でできた汚そうなものでしょ。いろいろ言われました。
だから、快楽のためにやってるんであればすぐにやめてるなと思います。
再びNYへ
いずれまたNYに行くの?
行きます。今日本でやってる作品制作を終えてからにはなりますが。
2、3個くらい違うテーマの作品を考えているので、実際にどれくらいの時間がかかるかはわからないけれど、でも、30歳までにはNYに戻りたい。今度は学生ビザではなくアーティストビザで。
とりあえずあと1年後に、日本でなにかしらできればいいなと思ってます。
おわりに
今日はありがとう!今後の作品、期待してます。
日本で個展をやることがあったら、見てみたいな
上記の作品以外にも色んなものをつくってきました。もしよかったらウェブサイトもありますので覗いてやってください。
まだまだ未熟ものですがこれからも頑張りたいと思います。
**************************
今回のインタビューをするにあたって私は、もしモラトリアムのフリーターならどうしよう、という懸念がありました。どういうインタビューになるんだろう、と。でも違った。
初対面の挨拶、家へ招いてくれてもてなしてくださる礼儀、会話をする姿勢、そしてインタビューの間そばで一緒にお茶を飲んでいた彼のおばあちゃんへの優しい気遣いと接し方。
きっと東間君は、外には出さないいろいろななにかがあるんだろう。
でもしっかりと先を見つめているような気を感じた。
と言うと、「そんなことありませんよ僕なんて」と笑うような気もするけど。
”生きてる意味”かあ。それを知りたいのか知りたくないのか、探してるのかどうでもいいのか、わかんないけども。
私も、生きてる意味、知れるんだった知りたいとは思う。
生きてる意味。
あなたは、なんでしょうか?