MILES : Reimagined 2010年代のマイルス・デイヴィス・ガイド (シンコー・ミュージックMOOK)
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マイルスとグレン・グールドは音楽家の中でも飛び抜けて関連書籍が多い、ということをどこかで目にした記憶がある。それだけこの両者はなぞめいている、ということなのかも知れない。
マイルスについては故中山康樹氏の「マイルスを聴け!」シリーズや、菊地成孔氏らによる「M.D」などを筆頭にいくつもの書籍がこれまでに登場してきた。それだけに、今回の責任編集を担当した柳樂氏曰く、この上にマイルス本を書くことは「罰ゲームに近い」というのはまったくその通りで、作り手としてはこれほどやりにくい本もないだろうと想像はつく。
とくに、中山氏はマイルス本を多数執筆していることもあり、マイルスについて語るときはまず中山氏の見解を参照、ということが功罪半ばする事態になって来つつあったように思う。(たとえば「クールの誕生」はつまらない説、など)
この本はそういった状況をある意味打ち破ることに成功しているように感じた。
内容はまず豊富なインタビューがうれしい。とりわけ、CBSソニー関係者の「アガルタ」「パンゲア」制作時の裏話は興味深い。
現役ミュージシャンのインタビューも興味深い。黒田卓也氏が「最初はマイルスはつまらないと思った」というのは本当にそうで(自分も最初にマイルスを聴いたときはよくわからなかった)、この人の音楽家としての誠実さを垣間見た気がした。
この本は「2010年代のマイルス・ガイド」というタイトルからして、基本的には今の現在進行形のジャズを聴いている人たちに向けてのマイルスガイドだと思うのだが、昔のジャズしか聴いてない自分にとっては正直、よくわからないところも多い。トニー・ウィリアムスやアイアートが今の○○に受け継がれてる、といわれても○○を知らないおっさんにはピンと来ないのである。しかしおっさんにとっては、逆にマイルスをきっかけにした今のジャズ入門、としても使えるのではないか、とふと思った。
あと面白いと思ったのは、インタビューがそれぞれ別のことを語っていても少しずつ内容がシンクロする箇所があって、そのため全体を通してみるとおぼろげながらマイルスの全体像を見通すことができたように感じることだ。
ここで変な例えだが唐突に、マイルスを「暗闇に浮かぶ巨大な像」と仮定してみる。
中山氏の著作が、中山康樹という「マイルスが好きでたまらない人間」の目を通して描いた、巨大なサーチライトで照らした一方向からのマイルス像と考えるなら、この本で明らかになるマイルス像は、いろいろな方向から照らしたライトが重なり合いつつ、巨像の輪郭を明らかにしていく様が見て取れるように思える。どちらがいい悪いではなく、新たなマイルスを浮かび上がらせることに成功した、と思う。