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JASRAC独占禁止法違反 JASRACと放送局の包括契約・放送事業者が追加負担を避けた例

2024/ 12/ 14
文化・宗教
                 
 その後の状況を反映していないので注意が必要なのですけど、2009年に書いていた話を見直しつつまとめ。<放送事業者が嘘をついている!理由もなく全部否定するJASRAC>、<放送局はむしろJASRACに肩入れ?公正な競争が行われない日本>などをまとめています。

2024/12/11まとめ:
●JASRACが公正取引委員会に一時勝利!史上初となる措置命令取り消し【NEW】


●JASRAC独占禁止法違反 JASRACと放送局の包括契約を問題視

2009/6/17:ITproでJASRACの問題の特集があったので読んでみました2009年2月27日、公正取引委員会からJASRACに独占禁止法違反に基づく排除措置命令が下されたことに関する記事です。JASRACはこれに対し、「公正取引委員会の事実誤認」として不服を申し立てしています。

 公正取引委員会の主張は「JASRACと放送局の包括契約が新規参入事業者の進出を阻害している」というもの。放送事業者がJASRAC以外の他事業者の管理楽曲を利用する場合、使用曲個別の料金支払いと報告義務があります。問題なのは、この報告義務がJASRAC以外の業者だけ。JSRACは特別なんですね。

 放送事業者がJASRACの音楽を使用する場合は、管理楽曲を報告する義務は無く、年間の放送事業収入の1.5%を支払うことになっています。これが先程書いた「JASRACと放送局の包括契約」です。そして、このJASRACの楽曲の使用料金は市場開放前と変わりなく、実際の楽曲の使用数の増減によって変わる仕組みないというのです。

 放送事業者にとっては、JASRAC以外の管理楽曲を用いると新たに負担が増えた上、個別に把握しなくてはいけなくなります。これではJASRAC以外の管理楽曲の使用をためらうのは当然で、到底公正な競争が成り立つとは思えません。

 そのため公正取引委員会は「放送等利用割合が反映されないような方法」を止めて、それを反映するよう何らかの措置を講じることを求めています。

 一方、JASRACの加藤衛理事は「新規参入以前と比べ,JASRACが管理する楽曲が減ったという事実はなく,むしろ増加しているくらいだ」と述べて、公正取引委員会の主張に反論していました。ただ、これはずれた反論のように思えます。JASRACが管理する楽曲の増加が、新規参入を妨げていないという理由にはならず、意味不明です。
(「一体,我々のどこが悪い」,JASRACが公取委と全面対決へ (ITpro)より)


●JASRACが特別なため、放送事業者が追加負担を避けた例が実際にある

2009/6/18:JASRAC以外で唯一、放送分野に進出している著作権管理事業者のイーライセンスが2006年10月、エイベックスマネジメントサービスから委託を受けた複数の楽曲がほとんど放送で使われず、やむなく無料期間を設けて巻き返しを図ろうとしたことがありました。

 しかし、これは失敗。無料期間終了とともに楽曲利用は減り、両社の管理委託契約は解除されてしまったそうです(※1)このときのイーライセンスの管理楽曲は、「大塚愛の「恋愛写真」を含め、すでに人気のあった楽曲や人気が出ることが予想される楽曲」(※2)でした。

 公正取引委員会はこれを「放送局が追加負担を避けた」ことの証拠としています。一方、JASRACの加藤衛理事はこれを視聴者の嗜好性のせいだとし、むしろJASRACの契約の問題でない証拠だと反論しています。(※1)

 しかし、これも先述のものと同様に反論がおかしいように感じますね。もし本当に視聴者の嗜好性が理由であれば、無料期間に一時的に楽曲の使用が増加することも無かったはず。放送事業者は楽曲を使用したかったものの、使用料金の負担増を嫌ったため無料期間以外はあまり使用しなかったと考えた方が自然です。


●放送事業者が嘘をついている!理由もなく全部否定するJASRAC

 実際、公正取引委員会は放送事業者から「JASRAC管理外の楽曲利用は余計な費用負担」という意見があったとしています(※1)。

 これについて加藤理事は、「そうしたヒアリングにどの程度の信ぴょう性があるのか疑わしい」「そうした趣旨のことを放送局が回答したのかもしれないが,それがすなわち事実だとは思えない。放送局が楽曲を使わなかった理由が他にあるにもかかわらず,とりあえずJASRACに責任を押し付けた可能性もあると考えられる」としていました。(※1)

 ただ、これもやっぱり反論がむちゃくちゃですね。放送事業者が嘘を言うということは確かにあり得るものの、そう主張するのにも何らかの証拠が必要。公正取引委員会側がある程度証拠や実例を出しているのに対し、JASRAC側はただただ全部否定しているだけで、何の証拠も出していません。これで納得しろというのは無理があるやり取りになっていました。

参考記事
※1 「一体,我々のどこが悪い」,JASRACが公取委と全面対決へ (ITpro)
※2 「JASRACの包括契約は独禁法違反」公取委が排除措置命令 (Internet Watch)


●放送局はむしろJASRACに肩入れ?公正な競争が行われない日本

2009/6/19:ここから当初<JASRAC独占禁止法違反3 放送事業者の姿勢>というタイトルで投稿していた話です。

 一般に市場競争の活発化は価格低下やサービス向上につながることになりますが、JASRACの独占是正に関しては、放送事業者からは歓迎といった反応は見られません。ITproが今回アンケート調査を行ったところ、民放キー局5社は「係争中につき推移を見守る」「他局が回答しなければ答えられない」などの理由で回答しなかったそうです。(※1)

 唯一回答したNHKにしても、「Q.現行の包括契約に不都合を感じる点は。 A.特にない」などとJASRACの独占に不満は無さげでした(※1)。それどころか、日本民間放送連盟の広瀬道貞会長は「(命令書の)内容について十分検討を行った上で,JASRACなどとの協議を行っていきたい」とのコメントを発表している(※1)ように、放送事業者としても望んで現在の契約を行っているような印象さえ受けます。

 冒頭に書いた「価格低下やサービス向上」というのは、公正な市場競争があってのものです。現在のように圧倒的に1事業者がシェアを持っている状態ではそれは望みづらいですし、放送事業者は現行からの変化によって逆に価格上昇やサービス低下が起きることへの不安もあるのかもしれません。

 これについては、公正取引委員会の措置に批判的な独禁法の専門家である郷原信郎弁護士も「仮に私的独占の改善策として現状の契約体制が見直されることになれば,利用者にとって以前より不便な契約を結ぶことにつながる可能性もある」と述べています。(※2)

 この独占市場が一朝一夕で変わることは考えられず、独占企業であるJASRACが放送事業者に対して有利な契約をできる状態が続くのは間違いありません。

 そもそも1事業者が独占していた分野に新規事業者が参入することは、困難を極めます。現状の契約ではJASRAC以外の事業者がシェアを拡大するのが難しいのは確かである以上、公正取引委員会は「JASRAC以外の事業者にシェアを分け与えよ,という主旨ではない」(※1)と説明していますが、もっと強気で行っても良いんじゃないかと思います。

 この分だと公正な競争が日本で行われるようになる日は来そうにありません。


参考記事
※1 「一体,我々のどこが悪い」,JASRACが公取委と全面対決へ(ITpro)
※2 公取委よ,そこに社会的要請はあるのか(ITpro)


●JASRACが公正取引委員会に一時勝利!史上初となる命令取り消し

2024/12/11まとめ:ここから、<JASRAC排除措置命令取消は公正取引委員会より放送局が問題>というタイトルで投稿していた話をまとめ。これを書いた時点では、JASRACが勝利していました。ただ、その後、逆転して、JASRACが裁判で敗訴しており、今後のまとめでそちらについても補足します。

2012/2/3:上記までで書いていたJASRACの話なのですが、公正取引委員会が一度出した排除措置命令が取消されるという珍しい事態になりました。これを公正取引委員会の翻意と見る向きがあるようですが、それよりも以前も書いた放送局側が及び腰であることの方が大きいと思います。

 また、公正取引委員会側の不備もある気がしますが、もしかするとこれが独占禁止法の限界なのかもしれません。記事は新しいものが内容的に薄くて理由がよくわからないものが多かったので、むしろわかりやすい前日の JASRACは「無罪」 公取委、排除命令覆す(日経新聞 2012/2/2 18:32 (2012/2/2 20:07更新) )からどうぞ。

<楽曲の著作権使用料を巡り、日本音楽著作権協会(JASRAC)が新規参入を妨げたとして独占禁止法違反(私的独占)で受けた排除措置命令について、公正取引委員会は命令を取り消す方針を決め、2日までに「無罪」とする審決案を同協会に送付した。審決案が確定すれば、2005年の独禁法改正後初めて命令が覆ることになる。
 公取委は、放送局の事業収入の1.5%を払えばJASRACの管理楽曲をいくら使ってもいいとする「包括的利用許諾契約」が、他の管理事業者と新たな契約を結ぶ際には追加の支払いによるコスト増を余儀なくされるため、新規業者の参入を阻害したと認定。09年2月、楽曲の放送比率に応じた使用料の仕組みを作るよう求める排除措置命令を出した。>

 JASRAC側は公取委の排除措置命令を不服として審判を申請。09年5月の審判開始から、全面的に争っていました。そして、審決案はJASRAC以外の管理事業者の楽曲が使われていなかったとする公取委の事実認定に関し、「証拠がなく認定できない」と判断したもようだといいます。

<JASRAC側は、09年10月28日の第3回審判で、新規業者が管理する歌手大塚愛さんの楽曲「恋愛写真」の場合、06年10月中に少なくとも515回、10月から12月までの3カ月間では少なくとも729回放送されていたとする具体的な調査結果を提示。「新規業者の楽曲が放送局で繰り返し使われており、排除措置命令は重大な誤りがある」と主張した。
 さらに10年9月~同11月にかけて行われた参考人質疑で、公取委の調査段階で「新規業者の楽曲の放送を控えた」などと供述していた放送局の複数の参考人が「そうした事実はない」と証言するなど、公取委の認定が次々に覆っていた>


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