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「本当にいいんですか?」時代考証スタッフも気にした帰蝶(濃姫)が「豊臣兄弟!」に姿を見せない理由

ジャーナリスト/コラムニスト/ノベライズ作家
大河ドラマ「豊臣兄弟!」NHK総合・毎週日曜午後8:00ほか【作】八津弘幸【音楽】木村秀彬【語り】安藤サクラ【出演】仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石聖、坂井真紀、宮澤エマ、大東駿介、松下洸平、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗旬ほか【時代考証】黒田基樹、柴裕之【制作統括】松川博敬、堀内裕介【プロデューサー】高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友茜(広報) 【演出】渡邊良雄、渡辺哲也、田中正

「大河ドラマが2月に休止になることはかなりレアなケースです」

大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK)第5回「嘘から出た実(まこと)」ではのちの三英傑・信長(小栗旬)、秀吉(藤吉郎/池松壮亮)、家康(松下洸平)が顔を合わせる胸熱な場面があった。

「この兄弟(秀吉、小一郎)もいよいよ歴史の表舞台に躍り出る」というワクワクナレーションもあって、物語はこれから――というところで、第6回は総選挙で1週休みに(2月15日放送)。

兄弟で力を合わせる 写真提供:NHK
兄弟で力を合わせる 写真提供:NHK

「大河ドラマが2月に休止になることはかなりレアなケースです」と制作統括の松川博敬チーフ・プロデューサーは戸惑いを語った。

「第5回から1週間、空くことでせっかく皆さんに根付き始めた視聴習慣が1回リセットされてしまうおそれがあります。第6回『兄弟の絆』は『豊臣兄弟!』のテーマそのままサブタイトルになっていて、とても重要な回と宣言しているようなものなので、ぜひご覧いただきたく、取材会を催しました」

初回から第5回まで史実を絶妙にアレンジして、歴史に詳しい人もそうでない人も楽しめる構成になっている「豊臣兄弟!」。そのなかで気になることをこの機会に聞けるのはラッキーだ。筆者も勇んで取材会に参加した。

◯「豊臣兄弟!」のテーマは絆と信じる力

「『豊臣兄弟!』のテーマを何かとよく聞かれるたびに『兄弟の絆』と話してきました」と松川CP。だがそれともうひとつテーマがあると言う。

「『人を信じる力』でもあると思っています。これは第6回まで作ってきて見えたことで、例えば第4回『桶狭間!』では小一郎(仲野太賀)が藤吉郎は信長が勝つことを信じていたが、自分はそれが足りなかったという話をします。第6回では兄弟がお互いに信じ合っているところがテーマになっています。

過酷な戦国時代では人を信じることでしか前に進めません。と同時に、人を信じて裏切られて殺されることもあるし、人を信じられずに堕ちていく人もいます。いま、『本能寺の変』の脚本を作っているところで、信長に足りなくて豊臣兄弟にあったものは『人を信じる力』だったのかもしれないということを考え始めています」

◯帰蝶はなぜ出てこないのか

秀吉と小一郎(のちの秀長)はふたりで高めあって戦国の時代を生き抜こうとしている。彼らには口は悪いが心根はあたたかい家族もいる。対照的なのが信長だ。

第4回では秀吉と小一郎の関係を見て、信長が弟・信勝(中沢元紀)を殺したことを回想し(実際斬ったのは柴田勝家〈山口馬木也〉)何か思うところがある表情をしていた。ただ弟を亡くしたものの信長には妹・市(宮﨑あおい)がいる。信長と市には強い絆が感じられる。

そこで気になるのは、信長の物語に欠かせない名パートナー・帰蝶(濃姫)である。

第5回で出てきた斎藤道三(麿赤兒)の娘で信長に嫁いだ人物だが、「豊臣兄弟!」には目下、帰蝶の影も形もない。なぜ帰蝶は出ないのだろうか。

「視聴者の皆様からそういう声を実に多くいただいています。“豊臣兄弟”の兄弟を立たせるため、秀吉と秀長、信長と市の対比を描く上で信長の孤独というものを設定しました。信長の妻や子供が出てくると信長の孤独がぼやけてしまう。唯一、本音を話せる人物が、ふたりきりの兄妹である市だけというふうに見せたかったんです。この後、市が浅井長政(中島歩)に嫁ぎ、3人の娘に恵まれたとき、信長がさらに孤独になることを際立たせたい。そうなると帰蝶の出しどころがないんです。これには時代考証会議でも先生方から『本当にいいんですか』と言われました。

ただ、いないわけではないんです。信長の息子たちが登場するということは帰蝶だけでなく側室も存在していることになります。つまり帰蝶も姿を見せないだけと考えていただければ。

そもそも、この時代は男社会で、女性が表舞台に出ることはほとんどありませんでした。キャストも圧倒的に男性の比率が高いですし、実はこの先、女性キャストが全く出てこない回も存在して、クレジットを見ていて僕自身も驚いたくらいなんです(笑)」

なるほど。存在しない世界線ではなく、今回の物語には帰蝶は姿を現さない。ほかの側室たちとともに、城のなかにいるということらしい。実際、帰蝶や濃姫はのちに便宜上(?)つけられた名前で、名前の記録は残っていないほどなのだ。それだけ女性は歴史の蚊帳の外だったといえるだろう。

今回は信長(小栗旬)と市(宮﨑あおい)の兄妹の関わりが強く描かれる 写真提供:NHK
今回は信長(小栗旬)と市(宮﨑あおい)の兄妹の関わりが強く描かれる 写真提供:NHK

姿を見せない帰蝶、草履を秀吉と小一郎に片方ずつもたせる信長、秀吉に本心と逆のことを教えてあとで笑っている家康など、「豊臣兄弟!」では有名な逸話をもとにしたアレンジが行われている。

佐久間盛重(金井浩人)、城戸小左衛門(加治将樹)、大沢次郎左衛門(松尾諭)などのエピソードも物語のなかにうまく組み込まれている。

「史実をベースにアレンジをしている物語がおかげさまで大変好評で、歴史好きの方にもそうアレンジしたかということですごく喜んでいただいていますし、第6回はさらに踏み込んでアレンジをしています。真犯人は誰かという謎解きという要素もあるミステリー仕立てになっています。我々としては視聴者の皆様からどういうリアクションが来るかなと思ってドキドキしております。

続く第7、8回は墨俣一夜城のエピソードです。これも後世の創作だと言われていて、それをちょっと逆手にとってアレンジをしています」

◯脚本家には秀長のような頼れる存在

有名な草履の話は江戸時代の歴史物語である「絵本太閤記」で書かれたものだから、そもそも史実だとかそうでないとか関係ないわけで、辻褄があったうえで楽しめればアレンジした者勝ちであろう。

歴史と過去の創作の名作をアレンジした巧みな脚本。さすが、「半沢直樹」や「VIVANT」などのヒットメーカー・八津弘幸さん。実はもうひとり脚本協力スタッフが参加している。片桐正博さんとはどういう人物なのだろうか。

「1年くらい前から脚本打ち合わせに参加してもらっていて、最後まで伴走してもらおうと思っている方です。八津さんがまだ駆け出しの脚本家だった頃からの仕事仲間で、アイデアに詰まったとき、アドバイスをもらったりするような近い関係だそうです。片桐さん自身は『自分は秀長だ』とおっしゃっています(笑)。

大河ドラマは歴史の勉強をしながらシナリオを書いていきます。片桐さんが時代考証の先生と話し合って史実を吸収して八津さんにアドバイスするなど、生き字引のような存在だそうで。片桐さんが史実に基づいたプロットをたたき台として書き、八津さんがそれをアレンジするというような役割分担をされているみたいですが、実情はおふたりにしか分からないです」

たたき台があるとそこから発想が湧いてきたりするもの。ベースを支えてくれる信頼できるスタッフがいることが、「豊臣兄弟!」の安定感に繋がっているのかもしれない。

「秀長の前半生は史実が残っていないのでオリジナル要素が多いですが、後半になるにしたがって明らかな史実が出てきます。そこは守らなきゃいけない。前半、オリジナリティを発揮し自由に羽根を伸ばしながら書いている時期からはいささか事情が変わってきます。事実が明確になったとき、ルールの中でどういう遊びができるかということになっていったとき、ますますサポートが大事になってくるかなと思います」

脚本づくりにも支える人がいる 写真提供:NHK
脚本づくりにも支える人がいる 写真提供:NHK


◯王道といわれるが

ところで松川さんはどんな大河を目指しているのだろうか。

「僕がはじめて豊臣秀吉の伝記を手にしたのは、小学校1、2年生の頃でした。ポプラ社の『豊臣秀吉』という伝記を親から買い与えられ、中身を暗記するくらいに読み込んだという記憶があります。力が重視される戦国時代において知恵で天下をとったことがとても痛快で、体が大きいわけでも強いわけでもない自分でも天下がとれるんじゃないかと勇気をもらいました。
僕が体験したことと同じようなことを現代の子供たちにも『豊臣兄弟!』を通して経験してほしくて、子供でも楽しめる、歴史初心者でもわかりやすい、家族で楽しんでいただけるドラマにしたいと思っています。子供たちにとって歴史への興味の扉になったらいいなと思っていたら、実際そういう声をたくさんいただいて、親子で熱中して見ていますとか、小学6年生の息子が毎週楽しみにしていますという声を聞いて、本当に良かったなと思っています。

キャラクター勝負であり、名優の方々に出ていただいていて、視聴者の皆さんが“王道”と言ってくださっていることもあって、期待されていることは裏切りたくないと思っています。皆さんが期待する有名武将には期待通りの活躍をしてもらうつもりなので、これからも充実した内容になっていくと思います」

第五話では前田利家(大東駿介)と妻まつ(菅井友香)が登場 写真提供:NHK
第五話では前田利家(大東駿介)と妻まつ(菅井友香)が登場 写真提供:NHK


◯気になる第6回「兄弟の絆」(2月15日放送)は仲野太賀の真骨頂

「第6回は仲野太賀さんの真骨頂というか、ラストシーンがこれまでで最も熱が入った場面になっています。大規模なロケーションや合戦シーンなどが戦国大河の醍醐味ではありますが、今回の見どころは「仲野太賀の芝居」です。信長にあるセリフを言う場面は現場で見ていて鳥肌が立ちましたし、彼自身もすごい覚悟を持って臨んでいます。また、信長にとっても大事な回になります」

ジャーナリスト/コラムニスト/ノベライズ作家

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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