今回は、知的財産(以下、知財)について一言もの申したい。企業にとって長らく権利保護の対象だった知財だが、最近では経営戦略の中核に据えて活用する動きが注目されるようになってきた。そこで筆者が提案したいのは、「最新技術を活用して知財価値を株式市場のように可視化できないか」ということだ。そうすれば「知財ビジネス」がダイナミックに動き出すのではないか。NECがこの分野で新たな事業を開始すると発表したのを機に、論議が広がることを期待して書き記す。
NECが「知財DX事業」を始める理由とは
まずは、NECの知財に関する新事業について概要と背景を紹介する。
同社は先頃、蓄積された知財業務のノウハウとAI技術を駆使し、知財に関する戦略立案・創造・保護・活用など、幅広い業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進し、企業の知財部門における業務の効率化および高度化を支援する「知財DX事業」を開始すると発表した。第一弾として、同社独自のAIを活用したSaaS型の業務効率化ツールとコンサルティングサービスの提供を4月から開始し、2030年度末までに30億円の売り上げを目指す。今後、国内外の特許事務所とパートナー連携を進め、幅広いユーザーニーズに向けて最適なツールやサービスを提供していく構えだ(図1)。

(図1)知財DX事業の全体像(出典:NECの説明資料)

NEC 知的財産&ルールメイキング部門長の井本史生氏
NEC 知的財産&ルールメイキング部門長の井本史生氏は発表会見で、企業における知財の役割の変化について、次のように説明した。
「市場環境を見ると、技術やビジネスモデルの優位性が短期間で変化している。また、経営戦略における重要性の変化では、企業買収や事業連携、オープンイノベーションといった動きにおいて、知財の質および量が企業価値の評価に影響するようになってきた。保有特許の充実度や競合に対する競争優位性が財務情報と並んで重要な判断材料になってきている。こうしたことから、知財は従来、権利保護という“守り”の手段だったが、経営戦略の中核として“攻め”の存在へと役割が変化してきている」(図2)

(図2)知財の役割の変化(出典:NECの説明資料)
一方で、同氏はそうした変化の中での課題についても次のように指摘した。
「専門知識を持つ知財人材の不足や、業務が特定の担当者に依存していることから、組織全体の生産性向上が困難となるなどの課題を抱えている。また、効率化や高度化への取り組みとしてAIの活用が進みつつあるものの、知財業務には技術や法律に関する高度な専門知識が求められるため、汎用(はんよう)的な生成AIでは技術内容の正確な理解や法的判断が十分に行えず、期待される効果が得られていないのが現状だ。さらに、知財業務に特化したAIの導入を検討する際には、各企業が個別に開発投資するためのリソース不足も課題となっている」(図3)

(図3)知財部門が直面している課題(出典:NECの説明資料)
これらの課題解決に向けて、同社は知財業務のDXを推進し、知財部門の業務の効率化および高度化を支援する新たな事業を開始する。井本氏は新事業について、「知財活動の変革のパートナーとなり、知財が主導する企業のイノベーション創出と持続的成長を支援し、企業価値の向上に貢献していきたい」と意気込みを示した。


