ファイトカルチャーが極右過激派を結びつける

  • URLをコピーしました!
目次

1 はじめに

 今回は、GPAHE(Global Project Against Hate and Extremism)によるレポート「American Ultras: How Fight Culture is Uniting Far-Right Extremists ( https://globalextremism.org/post/american-ultras/ )」を紹介する。本レポートは、米国を中心とする極右過激派ネットワークにおいて、格闘技やコンバットスポーツを基盤とする「ファイトカルチャー」が、組織間の結びつきを促進する重要な媒介として機能していることを明らかにするものである。特に、分散型のActive Club(AC)モデルの広がりにより、従来の白人至上主義組織と新興ネットワークが、格闘イベントやトレーニング、オンライン空間を通じて結びつき、横断的なネットワークが形成されている実態が示される。さらに、こうした格闘文化は単なる身体訓練や娯楽にとどまらず、若年層の勧誘やプロパガンダ拡散の手段として利用されており、極右的世界観の共有・強化に寄与している。本レポートは、ファイトカルチャーが極右運動の組織的再編と国際的拡大を支える基盤であることを指摘する。

2 「ファイトカルチャー」とは

 「ファイトカルチャー」とは、格闘技、スパーリング、集団格闘イベントなどを含む身体的実践を指し、トレーニングや大会形式の試合も含まれる。バージニア州で行われた「フォレスト・ファイト」がその具体例であり、参加者は格闘用グローブを着用し、集団での打撃戦を行う。これらのイベントは審判の管理下で実施され、カメラやドローンによって撮影・記録されるなど、一定の競技性と演出性を伴う。こうした集団格闘はヨーロッパのフーリガン文化の影響を受けたものとされる。
 また、「ファイトカルチャー」は単なるスポーツや娯楽ではない。その目的は身体能力の向上にとどまらず、将来的な対立状況への備えとして位置づけられている。すなわち、格闘技の実践は、将来の暴力を伴うイデオロギー対立を前提とした身体訓練としての側面を持つ
 さらに、ISDの他のレポート「“It is a racial war:” Analyzing the violent rhetoric of active club members on X」では( https://www.isdglobal.org/digital-dispatch/analyzing-violent-rhetoric-active-club-members-x/ )、公的な対外メッセージは穏健に装われている一方で、個々のメンバーの言説には暴力的志向が顕在化している点は、「ファイトカルチャー」の重要な特徴である。ISDによると、ACの公開チャンネルでは自己鍛錬や仲間意識といった穏健な価値が強調される一方で、個々のメンバーのXアカウントでは、人種的・宗教的マイノリティや公職者、イデオロギー上の敵とみなされる対象に対する暴力を示唆・肯定する発言が確認されている。

3 旧来極右組織と新興極右ネットワークの並存

 本レポートでは、米国および国際的な極右運動において、旧来の極右組織と新興のネットワーク型組織が並存している状況が示されている。旧来組織としては、Hammerskin Nationのような白人至上主義組織が挙げられ、複数の国にメンバーを持つ既存のネットワークとして言及されている。一方で、新興の形態としてACモデルが示されている。ACは中央集権的な指導者を持たず、地域ごとに独立した小規模グループとして構成され、共通のイデオロギーや活動様式によって緩やかに結びついている。
 フォレストファイトにおいてはオンライン上のフォームやメッセージアプリを通じた参加者の募集や、チームに所属しない参加者のマッチングなど、流動的な参加形態が確認されている。

4 世代横断極右ネットワークの形成

 本レポートでは、旧来の極右組織と新興の極右ネットワークが並存する状況を前提に、それらが相互に結びついている事例が示されている。実際に、ACにはネオナチ系スキンヘッドのストリートギャングのメンバーも参加しており、その中には世界最大級の組織の一つであるHammerskin Nation(HSN)も含まれる。HSNは暴力的かつ秘密主義的な組織であり、複数の国に展開しているほか、暴力事件への関与が指摘されている。1988年に米国で発足して以降、各地域に支部を拡大し、国際的なネットワークを形成している。こうした旧来組織とACの接点は、各地で具体的に確認されている。

  • 米国では、HSNメンバーが格闘イベントの運営に関与し、「フォレスト・ファイト」にも参加
  • カナダでは、Vinland Hammerskinsが2021年にActive Club Canadaを設立(後にメンバー逮捕を受けて活動縮小)
  • フィンランドでは、HSNのクラブハウスがACの集会や訓練の場として利用
  • 米国東部では、HSNメンバーが自宅をACの集会場所として提供し、ネットワーク形成を支援
  • カリフォルニアでは、SoCal Active Clubが白人至上主義系の格闘大会「Frontier」を主催

 さらに、こうした関係は単なる協力にとどず、組織の再編につながることもある。例えば、ネオナチ組織Vinlanders Social Club(VSC)は、地域のACを吸収し、自らの下部組織として再編している。これらの事例は、旧来の白人至上主義組織が、格闘クラブやACモデルの広がりを利用しながら、結びつきや再編を進めていることを示している。

5 結びつきを支える基盤としての「ファイトカルチャー」

 本レポートでは、格闘技やコンバットスポーツを中心とする「ファイトカルチャー」が、米国および国際的な白人至上主義・ネオナチ系ネットワークの形成と拡大において重要な役割を果たしていることが示されている。
 Wolves of Vinlandというバージニア州に拠点を置く白人至上主義集団は、Devotion Jujitsuという武道クラブと関係しており、同クラブは訓練の場であるとともに、オンラインでの物販やアパレル販売も行っている。
また、白人至上主義組織Patriot Frontのメンバーで構成されるチームについては、以下のような活動が確認されている。

  • 南カリフォルニアのActive Club系ネットワーク支部(SoCal Active Club)主催トーナメントへの参加
  • 「Frontier」「Blood on the Mats」といった大会への出場
  • 2024年には「Chewjitsu Open」など一般的な競技大会への参加

これらの事例は、極右組織が格闘スポーツを通じて、内部訓練にとどまらず外部の競技空間にも関与していることを示している
 さらに、こうした格闘イベントやトレーニングは、単なる参加の場ではなく、思想の共有と再生産の場として機能していると本レポートは強調する。集会、トレーニングセッション、試合といった一連の活動は、参加者同士の関係を強化すると同時に、暴力的対立を前提とする世界観を身体経験として内面化させる役割を持つ。加えて、これらの活動は映像や写真として編集され、SNS上で拡散されることで、外部に向けたプロパガンダとしても機能する。
別の論考(「アメリカ最凶の多角分散型白人至上主義グループActiveClubが示す情報戦の終焉」https://note.com/ichi_twnovel/n/nc5ab23ab9c9a )は、ACはフィットネスや格闘技を前面に出したイメージ戦略を通じて、新規参加者の勧誘とネットワーク拡張を同時に進めていると指摘されており、こうした発信は、従来の白人至上主義団体が持つ歴史性やアイデンティティと、新興ネットワークが持つ洗練されたビジュアルやブランディングを結びつけ、新たな参加者の動員を可能にしている。
 実際に、Hammerskin NationやWolves of Vinland、Vinlanders Social Clubといった旧来の組織は歴史や継続性を提供する一方で、Active Clubのような新興ネットワークは現代的な様式や分散的な組織形態を提示している。ファイトカルチャーは、こうした異なる性格を持つ主体を横断的に接続し、共通の実践空間を提供する役割を果たしている。
 また、オンライン上では、暴力的対立や将来的な衝突を想定する言説が継続的に発信されており、これらが格闘訓練や試合と結びつくことで、思想と実践が相互に補強される構造が形成されている。こうした相互作用により、「ファイトカルチャー」は単なる活動の一部ではなく、極右ネットワークの結びつきを維持・強化し、外部への拡張を可能にする中核的基盤として機能している。

6 まとめ

 本レポートでは、米国の白人至上主義・ネオナチ系ネットワークにおいて、格闘技やコンバットスポーツを基盤とする「ファイトカルチャー」が、異なる極右組織間のネットワーク形成および拡張に関わる重要な要素として機能していることを明らかにしている。また、格闘イベントやトレーニングといった活動は、若年層の参加者獲得や思想拡散の手段として用いられており、極右的な世界観の共有にも関与しているとレポートは強調する。「ファイトカルチャー」は極右ネットワークの結びつきを支える要素として機能しているのである。

よかったらシェアお願いします
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

2004年生まれ、新潟県出身。大学で政治外交史を専攻している。安全保障体制に興味があり、台湾情勢をめぐる米中の言動に注目している。

メールマガジン「週刊UNVEIL」(無料)をご購読ください。毎週、新着情報をお届けします。

目次