東シナ海における危機管理や救難協力などを話し合う日中高級事務レベル海洋協議の初会合が、5月15~16日にかけて中国浙江省杭州市で行われた。日中双方から海洋関係の実務者が参加し、海洋における両国間の協力と課題について意見を交換した。

 報道内容を総合すれば、日中海洋協議の初会合はまずまずの滑り出しだったと言える。とりわけ、日中関係がぎくしゃく――石原慎太郎・東京都知事による尖閣諸島買い取り表明や、「世界ウイグル会議」の日本での開催など――する中、この協議が予定通り行われたことは驚きでもあった。一方、中国がこの海洋協議の設置に合意した背景には、尖閣諸島の領有権に関する焦りが透けて見える。

 この協議の設置は、野田佳彦首相と温家宝首相が昨年12月に会談した際に合意したものだ。2010年9月に尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁巡視船に体当たりした事件以降、同海域で中国公船の領海侵犯などが相次いでいる。これを踏まえて、海上での不測の事態が軍事衝突にエスカレートしないように、当局者の交流を深めることを目的としている。この協議は今後、定期的に開かれる。

「信頼醸成が重要」との認識で一致

 初会合は、異例のものとなった。中国側の要請で、冒頭取材も認めない完全非公開のものだった。

 中国側からは外交部、国防部、総参謀部、公安部、交通運輸部、農業部、国家海洋局、国家能源(エネルギー)局が出席。日本側からは外務省、内閣府(総合海洋政策本部)、文部科学省、水産庁、資源エネルギー庁、国土交通省、海上保安庁、防衛省、環境省の各担当者が出席した。

 全体会合では日中両国がそれぞれの省庁の体制や業務内容を紹介し。2国間の協力や交流について意見を交わした。その後、「政策・海洋法ワーキンググループ会議」を開き、両国は海洋政策及び国内法について相互に説明した。

 日中の海洋関係機関が一堂に会し、顔合わせをしたことは両国間の信頼醸成の第一歩として画期的である。中国には人民解放軍海軍と別に、「五龍」と呼ばれる5つの海洋保安機関がある。尖閣周辺海域に頻繁に出没するようになった海洋監視船や漁業監視船はそれぞれ、「五龍」に数えられる農業部と国家海洋局に属している。今回は「五龍」からの出席者が、日本の海上保安庁や防衛省関係者らと初めて協議の場についた。実際に海の上で衝突する可能のある実力組織同士がお互いを知り、交流することは、危機管理の上で重要である。

 協議の結果、日中両政府は信頼醸成の構築が重要との認識で一致した。また焦点の一つだった尖閣諸島をめぐり、双方は原則的な立場を主張したが、激しい応酬にはならなかったようである。中断している東シナ海のガス田交渉は、今回の協議対象としないことで事前に合意していた。

 中国側はテーマとして、海洋の環境保護における日中共同事業と、日中境界線画定協議の再開、を提案した。一方、日本側はガス田共同開発の交渉再開に前向きな対応を中国側に促した。

 次回会合は今年後半に日本で行うことを確認。次官級の海洋協議も年内に行う方向で調整を進める模様である。

50年で実効支配が確定?

 石原都知事の尖閣買い上げや世界ウイグル会議の日本開催を口実に中国側がこの協議を延期することも十分考えられた。中国が延期しなかったのは、中国側がこの協議に重要な意義を見いだしているからだと推測される。

 ここで、中国がこの海洋協議の設置に合意した背景について考えてみよう。実は、尖閣沖漁船衝突事件以前から、日本はこの協議を提案していた。これに対して、中国側は前向きな回答を避けてきた。ところが、昨年12月の日中首脳会談で、中国側が海洋協議設置を逆提案してきたのである。

 その背景には、尖閣領有権に関する中国側の焦りがあると考えられる。キーワードは「2022年」である。

 中国の海洋関係者の間で最近、「尖閣諸島に対する日本の実効支配が2022年まで続けば、領有権を取り戻すことができなくなる」という話が広がっている。その論拠はこうだ。「実効支配が50年続けば領有権が確定する」という国際司法裁判所の判例がある。1972年の沖縄返還を起点とすれば、2022年がその期限になる。最近、中国の国家海洋局が尖閣に対する日本の実効支配を「崩す」ことを宣言した。その背景にはこの2022年という時効期限がある。

 しかし、これは全く根拠のない誤解である。実効支配の時効を50年とする判例は確立していない。国際司法裁判所は国際法の一般原則として時効取得の権原を認める傾向にはない。そもそも、日本が尖閣諸島を実効支配し始めたのは1895年であり、1972年を起点と考えることも間違っている。

50年時効説は、韓国が竹島に対して言い始めた

 なぜ、このような誤解が中国で広がっているのだろうか。実は、この実効支配50年時効説は、韓国人が竹島の実効支配を正当化するために使い出したものである。筆者がこの50年時効説を初めて聞いたのは、島根県が「竹島の日」を制定したことに韓国が強く反発した2005年頃である。韓国の国会議員が、「この問題を国際司法裁判所に提訴しても、韓国が50年以上実効支配をしているため日本に勝ち目はない」と言っていたのを覚えている。

 ここ数年、中国の海洋問題の研究者の間で、韓国が竹島において実効支配を確立した歴史についての研究が盛んと聞く。尖閣にこれを応用しようという考えらしい。例えば、国家海洋局海洋戦略研究所の李明傑研究員はその一人だ。おそらく、中国人研究者が韓国の事例を研究する中で50年時効説を発見し、これが広まったのだろう。いずれにせよ、韓国人も中国人も、国際法を理解していないようである。

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