結論からいうと・・・
お米の転売を行っている転売ヤーが保健所に「営業の届出」をしていなければ「食品衛生法」違反となる可能性が高く・・・
もし、衛生管理に不備がある場合や販売したお米で健康被害が出た場合は、罰則が科されることになります。
(自ら収穫したお米を精米・販売する農家は原則として届出不要)
罰則:1~3年以下の懲役、50万円~300万円(法人の場合1億円以下)の罰金等が科されます。
また、「米穀の出荷又は販売の事業の届出」を行っていない事業者に大量のお米を販売した農家も「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」違反になる可能性があります。
そして、大量のお米の転売を行う新規参入の事業者なども届出を行っていないとこの法律違反になる可能性が高いですね。
罰則:届出をしなかったり虚偽の届出をして米穀の出荷又は販売の事業を行った場合には50万円以下の罰金が科されます。
今のネット報道やSNSなどを見ると今回の価格高騰を受けて転売ヤー非難が繰り広げられています。
確かにお米を買い占めて米不足を招き、それを高く転売する人や業者が良いとはいえません。
しかし、根本的な原因は農家の高齢化で離農が相次ぎこの先も米不足が常態化してくるだろうという予測のもとにそのような行動が起こっているのではないでしょうか。
日本の歴史を見ても、過去の米騒動は戦後の食料不足や悪天候による凶作といった理由による米不足の中で儲けようとする転売ヤーによる買い占めに端を発していました。
資本主義経済の中で、不足する物資を安く買って高く売るというのに違法性はなく、モラルの問題はあるかもしれませんが正当な商行為といえます。
もちろん、その商行為の中に脱税など法律に違反する行為があれば別ですが・・・
今のところ転売が違法行為になるのは、チケット販売、コピー商品・模倣品・海賊版などの販売、酒類の販売、拳銃や指定薬物など本来違法な商品の販売などで、お米の転売自体は違法行為ではありません。
〇知らずに転売ヤーや生産者が法律違反を犯している
お米の場合も1年間に精米換算で20トン(20精米トン)以上の出荷又は販売の事業を行おうとする場合は、事業開始前に開始届出書を提出する必要があります。
20精米トンといえば、玄米を精米すると約1割減なので370俵(740袋/30kg)程度なので、少し大きな農家であればそれくらいの量を直接外食や集荷業者などに販売しているのではないでしょうか。
なお、生産者が自ら生産した米穀を農協などの届出事業者に出荷販売する場合、届出の必要はありません。
私の場合、ネット販売などを行っていて2015年に個人販売量が20精米トンを超えそうだったので届出をしました。
(農水省 米穀の出荷又は販売の事業の届出等についてhttps://www.maff.go.jp/j/seisan/syukka_hanbai_todokede/)
今回の米騒動ではこの届出をしていない事業者や個人による買い占めも相当あったように思いますが、そのような事業者や個人に20精米トンを超えて大量に販売した生産者も法律違反になってしまうのです。
届出をしなかったり虚偽の届出をして米穀の出荷又は販売の事業を行った場合には50万円以下の罰金が科されます。
今は届出事業者は地方農政局での閲覧しなければ、届出している業者なのかどうかもわからないので農家は農協より高い価格を提示されれば、その業者に売ってしまいます。
これを機にもう少しこの法律のことを周知徹底するとともに届出証などを作って販売の際に提示するかインボイス制度の適格請求書発行事業者のようにネットで簡単に届出業者を閲覧できるようにすれば、お米の売買の際のけん制にもなり、農家も知らずに法律違反を犯すことも少なくなると思います。
今回、農水省は消えた21万トンのお米を調べると言っていますが、多分、この届出を基に調査するのではないでしょうか。
〇お米の表示制度の改正による影響
令和3年7月から消費者に販売する際の玄米・精米の表示制度が変わっています。
(消費者庁 令和3年7月から玄米・精米の表示制度が変わります。 https://www.caa.go.jp/notice/assets/food_labeling_cms202_210526_02.pdf)
以前は農産物検査法による証明を受けていない場合、販売の際に品種と産年を表示することはできませんでした。
それがこの改正で、検査をしていなくても品種と年産を表示して販売することができるようになりました。
この資料では「〇〇ライス(生産者名)確認による」と記載されていますが、産地・品種・産年の根拠を確認した方法は必ずしも表示する必要はありません。
消費者側からすれば、スーパーなどで買ってもそれが1等米なのか2等米なのかなんて分からないのでこの制度改正があっても今までと何も変わりませんが・・・
これによって農家は検査手数料を払って検査をしなくても、品種と年産を表示して販売することができるようになったため、直接販売や農産物直売所などを通じて消費者への販売が容易に行えるようになりました。
お米の検査は、農産物検査法に基づき、生産者が生産した米穀等についての品位等検査を行うことのできる知識および技能を有する農産物検査員が行っています。
今までは検査をしていないと年産も品種も表示できず「未検査米」という表示でしか販売できなかったため、農家が直接販売するのはハードルが高かったのです。
そして検査員がいるのは農協やその他集荷業者が多かったので、それらの集荷業者にお米を出荷せざるを得ないという状況でした。
今回は農家の直接販売が、お米の価格高騰の一端を担っているといわれていますが、この改正で農家が消費者に直接販売しやすくなったのは間違いありません。
しかし、守るべき法令は他にも・・・
〇米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(米トレーサビリティ法)
「米トレーサビリティ法」に基づき、取引等の記録を作成・保存し、産地情報を伝達することが必要です。
(農水省 お米の流通に関する制度 生産者のみなさまへ https://www.maff.go.jp/j/syouan/keikaku/beikoku/attach/pdf/seisan01-1.pdf)
米・米加工品の取引、事業者間の移動、廃棄などを行った場合はその記録を作成・保存しなければなりません。
違反すれば50万円以下の罰金です。
消えた21万トンのお米の調査は、本来、この米トレーサビリティ法を活用するのが良いのですが、対象が多すぎて調査・集計をするにも莫大な労力と時間がかかるので、簡単に使えるような法律ではありません。
この法律を機能させるためには、システム化して農家も含めてお米の行方をすべてデータベース化する必要がありますが、高齢農家にPCやスマホを使えというのも難しいですし、私程度の農家ですら農協の出荷以外に年間4~500件の顧客取引を行っているので、そのすべてをデータベース化するのも現実的ではありません。
お米の場合、対象が多すぎて牛・牛肉のトレーサビリティのようにはいかないのです。
〇食品衛生法
米穀卸売業・米穀小売業を営む事業者は、保健所に営業の届出等を行う必要があります。
(農水省 米穀卸売業・米穀小売業を営む皆様へ(チラシ) https://www.maff.go.jp/j/seisan/syukka_hanbai_todokede/attach/pdf/index-41.pdf)
お米の取扱規模にかかわらず、届出が必要になります。
ただし、食品衛生法(昭和22年法律第233号)では
第四条 ⑦ この法律で営業とは、業として、食品若しくは添加物を採取し、製造し、輸入し、加工し、調理し、貯蔵し、運搬し、若しくは販売すること又は器具若しくは容器包装を製造し、輸入し、若しくは販売することをいう。
ただし、農業及び水産業における食品の採取業は、これを含まない。
と規定されています。
生産者及び生産者団体が行う農産物の簡易な加工については採取業として扱っていて・・・
精穀(精米、精麦)は、農産物の簡易な加工と認められています。(ただし、業として(請け負うなどして)行う場合は届出の対象)
厚労省のQ&Aを見ると
----------厚労省HP引用-----------
問8 農業や水産業を営む者もHACCPに沿った衛生管理の対象となりますか。
1 農業及び水産業における食品の採取業は、食品衛生法上の「営業」に当たらないことから、HACCPに沿った衛生管理の対象外となります。
2 個々の事例が採取業に該当するか否かについては、こちら(※)をご参照下さい。
3 なお、採取業を営む者についても、食品等事業者であることに変わりはありませんので、食品等事業者の責務として、一般衛生管理を中心に、自らが取り扱う食品等の安全性を確保するために必要な措置を講ずるよう努めるとともに、採取等に関する関係規定を遵守することが求められます。
※精穀(精米、精麦等)〇 業として(請け負うなどして)精穀する場合は届出の対象
(一部引用 厚労省 HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化に関するQ&A)
要するに農家が自分で採取したお米を精米・販売することについては、原則として届出の対象外だけど・・・
請け負うなどその販売方法によって米穀小売業と扱われれば食品衛生法の届出の対象となり得るということです。
この「業」について保健所に確認したところ、農家が自ら栽培したお米以外を他の農家などから請け負って精米・販売する場合は営業の届出が必要だが、自ら栽培したお米の精米・販売をする場合は量の多寡は関係なく届出は不要とのことでした。
実際に販売する農家からすれば、守るべき法令が多すぎて訳がわからないので法律を一本にまとめて届出を一回で済ませたいのですが・・・
多分、ほとんどの農家が知らずにお米の個人販売を行っている可能性が高いと思います。
ちなみに米農家でもない個人の転売ヤーが届出を行っているとは思えないので法律違反を犯している可能性は高いでしょう。
「猫の目農政」と揶揄されていますが・・・
次から次へと法律・規則を変えるのは良いのですが、それを農家などに説明しなければ意味がないのではないでしょうか。
「法令に書いてあるんだから、それを守るのは当たり前」という考えでは誰もついていけません。
いずれにしても農家がお米の個人販売をしようとすれば、これだけのハードルがあるので本来であれば簡単に行えるものではないのです。
〇根本的な原因を解消しなければ今後も価格高騰は続く
冒頭でも述べたように今回のお米の価格高騰は米不足に端を発しています。
いくら転作している戦略作物を水稲に戻しても、それを超えるようなスピードで農家の離農が進めばお米の供給不足は続きます。
離農のスピードの方が遅くても農家の平均年齢を考えると水稲に戻すはずの転作している圃場がなくなってしまい国内でお米の需要を賄えなくなるのは時間の問題です。
それであれば今回いくら備蓄米を放出して価格高騰が収まったとしても、根本的原因である農家の高齢化による離農という問題を解決しない限り、米騒動は繰り返されることになるでしょう。
輸入すればよいと思われるかもしれませんが、「食料供給困難事態対策法について考える~世界的に食糧が不足する?~」でも述べたとおり、世界規模でみるとお米を含む食料不足とその獲得合戦が繰り広げられています。
日本が栽培規模の小さい短粒種(ジャポニカ米)を大量に輸入するとなれば、相場は急騰して今の価格以上で購入しなければならなくなる可能性は高いと思います。
カルフォルニア米にしても、今はアメリカが税金を投入して国民に安く販売して余ったものを輸出に回しているので安く輸入できていますが、相場が上がって日本向けに栽培するとなると価格は高騰する可能性が高いでしょう。
日本はいくら高くても輸入しないと食料がなくて自国民が餓えてしまうのですから・・・
それを防ぐためにも、日本の農業の復興は急務です。
そのためには農業が衰退した原因である
国民が高くても適正価格を受け入れて、米価低迷による農家の赤字体質を解消するか、
欧米諸国のように税金を投入して高い生産価格と安い小売価格の差を埋めてお米の価格を下げるか
しか方法はありません。
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