年金の「目減り」放置が招くもの

吉田啓志・公益財団法人認知症予防財団事務局長
記者会見に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2023年2月24日、竹内幹撮影
記者会見に臨む岸田文雄首相=首相官邸で2023年2月24日、竹内幹撮影

 日本の公的年金には「マクロ経済スライド」と呼ばれる、給付を抑える仕組みがある。よく考えられた制度で私は肯定的に捉えてきたし、今もその考えに変わりはない。

ただ、物価の急激な上昇局面にある現在は、悪性インフレとデフレ再発の防止に向け官民挙げて賃上げに躍起となっている最中だ。そんな折に年金を独り目減りさせることが果たして正しいのだろうか。

物価が上がっているのに

 マクロ経済スライドは2004年の年金改革で導入された。それまで年金は物価や賃金の伸びに合わせて増やしてきたが、少子高齢化によって受給世代は増加の一途、片や支え手は減るばかりという状況下では、従来通り年金を増やしていくことができなくなった。

 そこで平均余命の伸びや現役世代の減少で年金財政が悪化する分を「スライド調整率」として計算し(23年度は0・3%)、財政が安定するまでの間、調整率の分だけ年金の伸びを物価などの上昇率より抑えることにしたのだ。

 04年改革時には、物価や賃金がマイナスになった時は同スライドを適用しない決まりだった。デフレ時はただでさえ物価などの下落分に合わせて年金も下がるのに、同スライドまで実施すると見た目の年金減額幅が大きくなってしまう。高齢者の反発を恐れた自民党が「デフレ時の適用」にストップをかけた。

 ところが08年のリーマン・ショックなどの影響でデフレに陥り、同スライドは発動できないことが続いた。給付水準は高止まりし、年金財政は一層悪化した。このため16年改革では、デフレで同スライドの実施ができなかった年のスライド調整率を翌年度以降に持ち越し、物価などが上昇した時に過去の分もまとめて減じる仕組みに変えた。

 4月からはこの新制度が適用されるものの、新たに受給者となる人の年金は前年度の人の水準より2・2%増える。月額でみると、自営業者らの国民年金(満額)なら1434円増の6万6250円、厚生年金(モデル夫婦世帯)なら4889円増の22万4482円だ。

 一見、めでたいように映る。しかし、…

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公益財団法人認知症予防財団事務局長

 1963年生まれ。認知症予防財団に寄せられる電話相談などの内容を集計、分析している。毎日新聞記者を兼務。2003年より現在に至るまで介護保険など社会保障制度を中心に取材を続けている。